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ドッペルゲンガーの恋人/過去からの彼女(官能オカルト連作短編)
【幼馴染 官能小説】

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過去から彼女(最終話)-1

1
 我が目を疑ってしまうのは無理もなかった。
 地下鉄の階段を上りかけたところへ、玲を呼び止めたのは、まだ若いサエだった。

「君でしょ? アヤちゃんの息子さん」

 けれども少し変だったのは、彼女は彼を知らぬ風だったことである。
 ほんの少し前に、別の世界の、同じ年代の頃のサエを地下鉄で救助したことがあるはずなのだが。口ぶりからすると、どうやらまた別の彼女らしい。

「そうだけど」

「うーん、似てるわ。ちゃんと育ったのねえ。そんで、名前は?」

「玲」

 そんなやり取りだけでも、推測が当たっていたことは理解できた。

「あなたはサエさん? 過去の時代から来たの?」

 やや日に焼けた元気娘は「チィース」と不敵に微笑むのだった。
 そして彼女は短兵急なまでのストレートさで核心に踏み込むのだった。

「アンタって、彼女いるの? フリーだったら、しばらく付き合ってよ。ほら、リクがあんなことになって、ずっと寂しくって男も日照りでさ。アンタだったらいいよ、リクの息子君だし。
 こっちの「年増な私」もパラレルワールド旅行中らしくって、それと入れ替わりでアタシはとりあえず二週間くらいこっちの未来の世界にいられるんだけど」

 玲はその瞬間、前期セメスターのテスト最終日をサボることを決めた。どうせ教養課程の一科目だけなのだから、たかが二単位くらいどうということはない。今、このサエと付き合うことほど大事なことはないだろう。

「映画でも見に行く?」

 そのデートの提案に、サエは即決で賛成を示した。
 彼女が選んだのはアクション映画だったが、途中からろくに見てすらいなかった。暗闇の中で玲の手を握り、そっと自分の膝や胸元に導いて様子を窺ってくる。最後にはとうとう抱き寄せてキスしてしまった。
 サエが差し出したのは仮住まいの部屋の鍵。
 地下鉄構内のどこかにある、隠されたワンルームだった。

「そのうち、玲の部屋も見せてよね」

 お誘いの意味は一つしかないし、断るなどありえない選択だった。
 それで母のアヤに「友達の家に泊まる」ともっともらしく電話すると、打てば響くように「未来旅行のサエちゃんでしょ?」と図星を突かれ、玲は「え、なんで!」とつい問い返してしまった。何故知っているのか目を白黒させると、サエは「そりゃ知ってるでしょー」とニヒニヒ笑うのだった。


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