酩酊黒猫-3
あれから10日が経ち
いまだ殆ど眠れていなかった
僕は夢に逃げたくて買い物に出掛けた
枕
布団
音楽
お香
眠れるならばそれでよかった
けれど試しても試しても
増えるのは焦りだけ
今日眠れるのであれば
夢の中では笑ってください
笑い飛ばして
ばかだねと言って
あたまをくしゃくしゃ撫でてください
聞こえてんだろ
教えろよ
こんなにも
こんなにも
それさえも叶わないの
それさえも無理ですか
充電したばかりの携帯電話を取り出して
僕は適当な数字を押した
打ち終えて耳に当てると
酷く声の高い女が
もしもしー?
え?
つうか誰?
あははいつものくせで出ちゃったじゃん!
陽気にほざいている
もしもし
あんたいま暇?
ちょっと相手してよ
番号?
適当に押したんだよ
うそ
すきな女の誕生日繰り返してみたの
え
眠い?
俺眠くないもん
ねえ教えてよ
どうしたら眠くなんの
は?軟派じゃないって
ま軟派でも何でもいいけど
戻れないと思った
戻れたとしても
戻りかたを忘れてしまった
それは随分前の話だ
ねむれないの?
受話器越しに女が問う
僕はあえて暗い声色でぼやいた
ねむれないんだ
安眠グッズなんか効いたことねぇよ
僕は弱くてとても脆い
殻は薄い膜のようだ
当分部屋から逃げる生活が続きそうだった
だのに彼女を抱きしめたやわい心地よい感触は
まだ指の端で生きていたのだ
あれからもう10日が経つ
まだ生きているのだ
この先端で、彼女が。
End