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酩酊黒猫
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酩酊黒猫-1

10日前
駅のホウムで好きだと告げた
別れる間際に首を横に振られた
この光景は初めてじゃない
でも首を振られた後にどう接すればいいのか全く分からない
笑えば苦しくなる
誤魔化しても苦しくなる
どちらにしても苦しくなる
これを混乱、とでも言うのだろうか
何度も彼女に伝えているのに
僕は無能を繰り返す
こんなに頭が悪くなったのは殆ど、恐らく、初めてだ


その帰り道道路の片隅
いやなものを見てしまった
猫が倒れていた
黒い身体ぐったりと横たわり
眠っているのかと思い込んだ
タイヤの重圧を受けて潰れたそれは
どう見ても立ち上がることさえ出来なくて
見る限り
ただ死んでいただけだった


随分と僕みたいだ
などと安易に思ってしまった


想い過ぎて吐いたことがある
熱を出したことも
音に酔って泣いたこともある
僕はそんなひとに出会えてとても幸福だと思う
それでも夜がやってくると
苦しむことも少なくなくて
僕はそんなひとに出会えてとても不幸だとも思う


7日前
誰もいない図書館で懲りずにまた好きだと言った
それでも泣きながら無理だと言われた
この光景は初めてじゃない
彼女はひとりになってから2日程寝ていなかった
睡魔まで奪ってしまう男がどうして自分じゃないんだろうか
僕は本日1度目のゲロを吐いた
朝食べたかたいトオストとミルクの入っていない珈琲を全部、外へ
吐いてしまうとすっきりしたがその後に酷い臭いが鼻をついた
彼女の華奢な腕を借りながら自分の部屋へと戻り
苦しまぎれにもう一度
好きだと告げた
彼女は何も答えなかった
いまだに聞こえないフリを続けた
僕はキレた
なんでどうして
こんなにも
借りてきた読みもしない本と彼女を無理矢理ベッドへ押し倒した


ことばで無理ならば、残るは身体で。


自分から望んだのに
それはあたたかくも何ともなくて
僕はその最中必死に眼を開けていた
閉じれば理性がうまれると思ったのだ
彼女は可笑しいと思っただろう
僕のことをおかしな奴だと
実際ゲロを吐いていたし興奮していたし泣きそうで在ったしもう訳が分からなかったし
僕は酷く酩酊していた
酒ではない
でも酒よりも強い何かに酔っていた


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