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ドッペルゲンガーの恋人/過去からの彼女(官能オカルト連作短編)
【幼馴染 官能小説】

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暗黒司祭とカリーナの対決-1

1
 西村カリナのよくある癖は、指と手鏡で自分の処女膜を確かめることだ。
 それは過去の、おぼろげとなった「もう一つの記憶」の中での、不幸な人生と末路から、もう一つの別の現世へと無事帰還できた証なのだから。
 もう一つの記憶の中で、彼女は不思議な、パラレルワールドを繋ぐ地下鉄メトロで車掌をやっていた。
 今でもそれがたしかにあったことだと思うけれど、証拠も根拠もないはっきりとした確信は、自分でもどうしてなのか少し謎だった。常識的に考えるなら、夢や妄想でしかないはずなのに。
 他に気に懸かることといえば、あの小さな男の子のことだろうか。
 メトロの世界で出会った(客として救った)はずの幼い少年「アキラ君」のことは良く覚えているのに、この現実の世界に戻っておよそ二年も経つというのに、まだ顔を会わせたことはないのだ。

(どうしてるんだろ?)

 こんな夏休みにトボトボ歩きながら空を見上げると、何もかもか遠く感じられてくる。
 じきにセーラー服も着収めで、高校卒業後には調理と栄養の専門学校か短大に行く予定になっている。
 父が工場勤めのコックで母はスーパーの惣菜調理だから、家の稼業みたいなものだし、将来はそういう仕事に就くのだろうと漠然と思っていた。けれども調理師の免許だけとるのでなく、やるなら栄養士の勉強くらいまでしておけと父に勧められたのだ。カリナは勉強はあまり好きでも得意でもなかったが(成績は並程度だったけれど)、興味のある分野ならどうにかなりそうではあったから。

(毎日学校で給食作るお仕事とか、大変そうだけどいいかも)

 子供とか学校の雰囲気は嫌いではなかった。
 それに給料や生活の安定度は、なんといっても魅力ではある。
 学校や病院の調理・配膳職というのは悪くないし、出来ることだったら家庭科の教員になりたい。それで悪あがきのように短大を目指して勉強する羽目になる。親に同じ額の学費を払わせるのなら、それくらいの目標や心意気は持つしかない。

(友達いなかったら、絶対挫折してるっての)

 これから高校を中退した友人の家に行くのだ。
 遊びにでなく、一緒に勉強するために。
 何しろ仲が良かった古賀莉亜は極度の病弱で、成績は悪くなかったのに慢性的な体調不良に苛まれ、ついには高校を辞める羽目になった。その後、一時は病院で死にかけていた。
 けれども大検をとりたいとか、値段の安い通信制でも大学を出たいとかいう理由で、執念深く自習を続けている(他にすることもない)。それで現役高校生のカリナは、見舞いを兼ねて遊びに行くたびに、この友人から逆に色々教わっていたというのが実情であった。

(あの子って、彼氏までつくってるし、マジ凄いわ)

 どうやら幼馴染なのだそうだけれど、人間の運というのはわからないものだった。
 世の中の銘々が人生の苦労、山や谷を抱え込み負わされるけれども、一見は悲惨なようでいても何かしら救いがあったりすることも多いのだろう。
 カリナは「彼氏君」のノロケも聞いてやれと思う。
 恋愛話と猥談は勉強会とセットになっている(そうでもなければやっとれん!)。
 やはり関心はあるし、彼女の場合は別の運命を経験しているだけに、妙にその方面に詳しかったりもする。それで莉亜からよく「耳年増」と言われるのだけれども、それも一理ではあるだろう。しかし今現在にヤラシイことをやっているのは莉亜の方なのだから、それで非難される覚えもなかった。


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