暗黒司祭とカリーナの対決-7
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それでもカリナはキッとして、涙目のままで暗黒司祭のじょるじゅを睨む。
「終わったよ。これで」
「ええ、良いものを見ました。莉亜さんのことはご心配なく」
その回答の言葉と不愉快な拍手を聞きながら、カリナはフラフラ立ち上がり、無言で椅子に拘束された男を拳固で力いっぱいに殴りつけていた。裸の男はコンビニの袋で萎えゆく男根を隠したまま床にぶっ倒れる。さらに横倒しにひっくり返った男の腹を蹴る。
カリナは先ほどの初行為のせいで股間がまだ痛かったが、それでも憤怒の感情が上回ってもう二回ほど蹴りつけた。
「死ね! 死んじゃえ!」
完全な八つ当たりヒステリーだが、彼女からすれば正当な理由があることだ。
「お前なんか、お前なんか、大嫌いだ!」
見下すカリナの横から音もなくじょるじゅが歩み寄り、ギョッとして道をあけたのを無視して、しゃがみこむ。
「酷いことをする。あなたのことを待っていたんですよ、この子は」
じょるじゅが拘束全裸男の顔の布袋をとりのける。
「え?」
そこにはカリナの知っている顔があった。
マコトだった。
「え、え? 嘘? マコト君?」
かつてネメシス号(復讐列車)の車掌をやっていたときに出会い、ほんの短い期間の付き合いで教え諭した小さな男の子は、今はカリナより今はちょっとだけカリナより年上になっているのかもしれなかった。ミラクルなメトロ空間では時空の揺らぎがあるから、こうした時間的な不整合は日常的にあることなのである。
「カリーナ、ずっと会いたかった」
素っ裸のマコトは椅子から解放され、きまり悪く照れるように微笑む。
なんだか魔法が解けた「カエルの王子様」の御伽話みたいだった。お姫様が気に食わない蛙を投げたら、それは運命の王子様でした。
「ど、どうして? マコト君なの?」
驚愕してまだ我が目を疑っているカリナにじょるじゅが言った。
「実はついこの間に、鵺君に鬼退治の手伝いをお願いしましてね、これがその返礼なのですよ。
それに私どもとしましては、知らぬ者から見れば「外道」ではあるにしても、自分らなりの矜持や戒律、それに仁義がないわけでは、あながちないのです。彼は私に敬意を払い、多少は理解を持ってくれていますし、商売敵ではあるなりにも」
細かい裏事情はどうでも良かったらしい。
再会した二人は熱烈にキスを交わすことに夢中になっていた。
「んっ、んっ」
舌を絡めあうキスでカリナは全身がカッと火照ってくるようだった。さっきの乱暴なバージン破壊での痛みと刺激の残響が急に甘く痺れるようになってきて、マコトに抱きしめられながら背筋をくねらせる。悩ましく艶かしい喘ぎが車内に響く。
カリナは最初のキスの興奮で密かに達してしまったようだった。陶酔した蕩けた表情は愛とエクスタシーの証拠のようなもの。涙は止まって忘我のような幸福を浮かべている。
「んんっ、ハァハァ」
くってりと抱きしめられ、マコトの裸の肩に頭をもたせかけている。
じょるじゅは困ったような呆れ顔で、説明の話を途中からちゃんと聞いて貰えないのに苦笑していた。
「あの、ですね」
カリナとアキラは見つめ合ってもう一度キスを交わす。
ようやく外野の目線と存在を思い出したようで、カリナはパッと恥じらいに赤くなって笑い出す。一息吐いた少年は返された衣服を着ようとする。
「そうなの? なんでもいいわ! でも見直したわ、ちょっとだけ。ハゲが電球みたいに光って見える!」
一遍に機嫌を直したカリナは、夏制服のスカートのポケットから、さっき脱いだばかりの丸めたピンクのパンティをじょるじゅの顔面にポイッと投げる。
「それはサービス、プレゼントよっ!」
少女の涙目はとっくに笑顔に変わり、威勢良く投げ与えたパンティをピシッと指差す。
アキラも服を手早く身につけながら明るい活力に満ちていた。それから二人は連れ立って、地上の現実の世界へと帰っていく。
「本当に、今日だけはありがとうっ! 被るなり食べるなり、好きにして! 鵺さんやコアラさんによろしくっ!」
カリナは懐かしい、大好きな相思相愛の男の子の手を引っ張って、元気良くノーパンのままでメトロの階段を駆け上がって行った。