腹上死ハネムーンの花嫁(最終話)-1
1
摩訶不思議な地下鉄でのパラレルワールドへの旅から帰り、どうせ全部は信じてもらえないだろうなとは思いながらも、それでも大好きなサエさんには自分の経験したミラクルを話してみたかった。あの試験の日の帰り(分かれた後で事は起こった)に話したように、あるいは何がしか知っていたり体験しているのかもしれないとも思ったからだ。
すると現実は想像を超えていた。
なんとサエと彼氏のリクも、莉亜と同様のディープな出来事が過去にあったのだという。
「あいつってさ」
通院した病院庭のベンチで、サエが缶コーヒー片手に自分の恋愛事情を告白する。
考えるまでもなく「あいつ」とは二宮リクのことだ。
「別の世界の義理の妹と、その世界の未来でオバサンになった私と、どーも両方とも妊娠させたみたいなのよねー。オバサンの私の方はどうなったのか知らないけど、でも妹のアヤちゃんの方は確実なんだわ。だって、私が地下鉄の変な場所で幽霊に襲われたとき、その息子君が駆けつけて助けてくれたんだもの」
「……」
冗談じみているけれども、とんでもない話の内容に莉亜は言葉も出ない。
サエは思わせぶりにウインクした。
しかも甘い追憶に浸るかのような、恋する乙女そのまんまでウットリした表情。
「そのリクとアヤちゃんの息子君が、すっごく男前でタフで優しくて……。だからさ、私のファーストキスは彼に捧げたのよねー。リクのことも元から好きだったけど、本気が本気になったのは、息子君がキューピットじゃないけど決定打かもしれない」
「すごいこと聞いちゃいました……」
莉亜が目線を彷徨わせた先にいたのは、どこか見覚えのある姿だった。
彼は足にギプスを巻き、松葉杖を突いてすぐ前を通り過ぎていく。
ジッと視線を注ぐと目が合い、その少年は意味がわからず不思議そうな顔をする。
「リョウ君、どうしたの?」
見知らぬ同年代の、病弱そうな深窓の令嬢のような女の子から急に話しかけられ、少年は足を止めてたじろぎながら記憶を探っている様子だった。
2
莉亜はまた、別の世界の夢を見ていた。
病室のベッドで自己破壊的な自涜行為に耽る夢を。
黒檀のような湾曲物を逆手に持ち、自殺的に自分の禁忌の姫園を抜き挿し蹂躙している。
それはあの眼鏡の女車掌代理ちゃんが特別プレゼントサービスした、リョウのイチモツの立体コピー(弾力がある上に脈打ちまでする)。しかも傍らのサイドテーブルのパソコン画面の中では、他ならぬもう一人の自分とリョウがSEXに励んでいるのだった。
「畜生、畜生、畜生! あの女、あの女、殺してやる、殺してやるっ! ううっ!」
あの女とは、今まさに別の場所でリョウと交わっている、もう一人の自分のことだ。
目が血走って夜叉のような顔になっていることが自分でもよくわかっていた。
(痛い、痛い、ううう、痛い、痛いけどコレが、リョウのおチンチンの感触なんだ)
未開通・未開発の蜜肉の秘穴を、自らの手で強引に押し破り広げるのは、究極の自虐行為だ。
ほとんど切腹でもしているような気持ちになる。女の身体の一番脆くデリケートな部分に鋼の楔でも打ち込まれるような苦悶が走る。それでも止められないのは、意地と激しい感情のせい、おまけにだんだんに感じてしまってもいたからだ。
「うう、ひっく。リョウ、辛いよぅ。こんなのじゃヤダ、リョウのが欲しい」
泣いてしまうのは痛いからだけでなく、途方もなく孤独で寂しいからだ。
「ああ、死にたい! うっぐぅ、リョウ、リョウっ、ああぁぁ」
苦痛が麻痺してしまい、子宮はダラダラとよだれを垂らしている。
わななく両手で握り締めた凶器の柄には、さっき処女膜が破れた血とおびただしい量の愛液が流れ、シーツにまでポタポタ垂れていた。