腹上死ハネムーンの花嫁(最終話)-3
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「はい」
差し返された水筒は口からアンモニア臭を放ち、しかも縮れた性毛がくっついている。
「飲んで」
「?」
「私の女のカラダとアソコ、使いたいんでしょ? それ全部飲んだら挿れさせてあげる」
いたぶって足元を見るような挑戦的な物言いだった。
莉亜はリョウに水筒を押し付けると、パタリとまたベッドに寝っ転がって、ジッとリョウのことを観察している。どうせ困るだろうとタカを括っていたのだろう。
しかしリョウは口を付け、ゆっくりと水筒を傾ける。
(え?)
莉亜はとたんに頭が真っ白になり、顔から火が出る思いだった。驚愕で目を見開いて飛び起きる。
少年の喉が二回鳴る前に莉亜が慌てた様子で引きとめていた。
「ダメよッ! そんなもの飲んだら!」
「莉亜が言ったんだろ」
「そ、それは怒ってただけだから! 本当に飲めだなんて」
狼狽した莉亜はオロオロしてしまっていたが、今度はリョウの方が少し怒っている様子でもある。目線がぶつかって睨みあい、探り合う。
慌てて目に付いた白い布でリョウの口許を拭いたら、それは自分のパンティでさらに愕然としてしまう。とっくに彼女は耳まで真っ赤になっていた。
莉亜はいたたまれなくなって先に降参した。
「ああ、もうっ! 負けたわよっ!」
目で個室ドアの方を見て「鍵かけて」と囁く。レースのカーテンは閉まっている。
「大丈夫なの?」
「ちょっとの間だったら大丈夫よ」
「そうじゃなくって、莉亜の身体の具合とか」
この期に及んで無用の躊躇いするリョウに、莉亜は口をへの字に曲げる。
「これ以上、恥かかせないでよ」
戻ってきたリョウに、莉亜はベッドの片方に寄っていた。
「ズボン下ろして寝て。あと、恥ずかしいから全部脱ぐのは勘弁してよね。痩せて肋骨がすごい浮いちゃってて見せたくない。触るんだったら上からでお願い」
何もかも指示に従うことにした。
脱ぎ出したペニスの状態を見て、莉亜は意外で的外れそうな顔になる。
「あら、小さい」
「人をなんだと」
「んフフ、おっきくしてあげる」
莉亜はリョウの腹の上を肘でホールドしながら、手と口で遊び始める。
(ああ、私だけのリョウのチンチン)
失くしたり奪われたものを、とうとう取り返したような気分らしかった。リョウのそれをこれまで自由にしたのは彼女だけなのだ。もう一人の自分を除いては。
チロチロ動く舌や淑やかな手の愛撫は心地良かったけれども、リョウは緊張してしまってまだ十分に勃起できないでいる。
「まさか、私じゃもう勃たないわけ? 前まではあんなに」
「緊張しちゃって」
莉亜が半勃起の陰茎を口に咥えて飴玉みたいにしゃぶってくる。そうしたら柔らかいままでドクリと暴発してしまった。リョウはあまりにも興奮しすぎてしまっていたのかもしれない。
(リョウのヨーグルト。すごく生臭い)
機嫌を直した莉亜は微笑みながら、噛めるほどに濃厚な微量のお漏らしの雫を、チュッチュと玩ぶように吸い出す。それから口の中でリョウのサンプルヨーグルトを味わいつつ、今度はシャツまで捲って熱く濡れた舌で乳首を吸ってくる。
「そんなところ、ううっ」
「いいでしょ。男の子でも感じるものなのね」
「莉亜のせいだよ」
リョウは変な精神状態のせいなのか、身体の感度までが変になっているようだった。普段だったらこうではないのに、くすぐったいような官能の性感がやたらと敏感に鳴ってしまっている。その原因がこの莉亜なのは間違いなかった。
しかも触ってくる女の手つきがやたらといやらしい。
「練習の成果、見せてあげるわ」
莉亜は双眸に鬼火のような光を瞬かせて、またしてもリョウの下半身に襲い掛かる。
まるで女吸血鬼やサキュバスのような執拗で巧みな愛撫で、数分も弄られているうちに簡単に勃起してしまう。
「上手になったでしょ。いつか悦んでもらえるかなって、ずっと思ってた。リョウのことばっかり考えながら一人で玩具で遊んでたのよ」
莉亜は無邪気なほどに天真爛漫な誇らしげな表情を輝かせる。心から嬉しげに。
たぶん妄想や擬似ペニスの玩具で、一人で練習していたのだろう。
ひょっとしたら叶わないかもしれないリョウとの本番情交のために、莉亜はどれだけの切なく悩ましい想いを重ねていたのだろうか(他に手近な相手がいるとも思えない)。そんなことを思うだけでも、少年は胸の奥が熱くなるようだった。