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ドッペルゲンガーの恋人/過去からの彼女(官能オカルト連作短編)
【幼馴染 官能小説】

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夢と潜在願望-3


「いい? もしこの子に変なことしたら、パンチか兎跳びだからね?」

 病室でサエは、莉亜の卒業資格試験前の復習のため、家庭教師代わりに引っ張ってきたリクに笑顔で釘を刺した。自分の小さな拳固を示し、己の彼氏にニコニコと威嚇している。

「それか腕立て・腹筋一万回でも良いけどね? 分割で五割増でもOKよ。でもま、その前にあなたが鉄拳制裁とムエタイ膝蹴り地獄で地面のアスファルトにぶっ転がって、それでもまだちゃんと息してるかどうか、それがまず問題だけど」

「コイツ、筋金入りの脳筋でしょ? たぶん脳味噌まで筋肉だから」

 温和そうな二宮リクは表情を変えないまま、サエを指差して莉亜を破顔一笑させた。様子から察すればサエの威嚇発言は本音混じりとはいえジョークなのだろう。
 しかし莉亜もさるもの、素早いスナイプ発言を入れてくる。
「そうなんですか? でもリクさんは、サエさんのオッパイやお尻とかがすごく好きだとか? そーゆーところは筋肉なんですかぁ?」

「そんなことまで?」

 話したの?
 リクは横のサエに鳩豆な視線を投げる。

「そうよ、ちょっとだけ。男なんてのは、アンタも含めて基本ケダモノだって、ちゃんと事前に取り扱い注意の警告しとかないとねー。どんだけ浅ましいか、自分でわかってるでしょ? 予防接種じゃないけど、清純な若い子には先に教えとかないと」

 サエは莉亜に親指を立てて、リクには少し邪悪で獰猛な肉食獣の笑みを浮かべた。リクは諦めた顔で「人のことを何だと思って」とボソリ呟いた。
 するとサエは小さな拳固をポキリとにこやかに鳴らす真似をして「はァ?」とだけ単音節を発する。これは「文句あんの?」「黙れ」くらいの言外の意味で、察しないと女特有の言葉のラッシュ攻撃と、時によってはリアルの拳固で黙らされる羽目になるのである。
 莉亜はドキドキしながらも面白そうに見守っているのだった。きっと年上の恋人二人の関係や日常の生活に想像を馳せているのだろう。
 何しろサエは人は良いものの根っからの体育会気質で、しかも彼女の父親が自衛官な事もあって「伍長ちゃん」の渾名が付いている。どうやら女子高のノリで戦争映画気取りの看護婦他の女性軍団の中で、最初の新任の「二等兵ちゃん」扱いから、勤務期間と評価につれて順次に昇格・定着したらしい(ベテランや年配看護婦や婦長などが軍曹・曹長で、医者は中尉・大尉・少佐・大佐などとふざけて呼ばれているらしい)。

「仲良いんですね」

 感嘆するようなお察しの言葉にリクは苦笑する。

「壊れた鍋にも合う蓋があるんだよ」

「そうなんですか? すごく幸せそうですよ」

 莉亜はニコニコと応酬する。
 これも女の勘で敏感になのかどうか、サエがかなりの上機嫌であることくらいは見抜いていたし、リクが彼女のことを好いて慣れ親しんでいることもお見通しだった。
 話に聞いていた「サエさんの彼氏」殿の実物を目の前にした感動と喜びもある。

「とにかくっ! 莉亜ちゃんはまだ清純な乙女なんだから、アンタは分際弁えなさいよ?」

 おそらくサエとの同性愛じみた行為はノーカウントなのだろう。

「二十三にもなって親の脛齧りの分際で、こうしてお義母様の大切な患者のお姫様にご奉仕させて頂けることに感謝しなさい。ん?」

 サエは三年制の医療専門学校を出てこの病院に就職・勤務している。
 一方のリクは大学四年を飛ばして大学院の修士課程に短縮・飛び入学してはいるのだが、まだしょせんは学生なのである。そこも半分の期間の一年で突破できると踏んでいたようだが、そこまで世の中は甘くない。結局は規定の二年間在籍することになり、しかも中退・落第すれば卒業資格が貰えない。それで卒業論文を書きながら就職活動やら何やらやっているところを、彼女の三沢サエに引っ張り出されたのである(ここの女医である義母・二宮先生の肝いりでもある)。
 けれどもリクとしてもあながち悪い気分ではなかった。信頼されていることはわかっていたし、多少なりとも役に立てるなら良いことだろう。

「わかったって、伍長ちゃん」

 それでも減らず口を尖らせるリクに、サエは彼を指差して「こんなバカな先生なんかでごめんね」と莉亜にわざとらしく詫びるのだった。
 普段の病院服ではなく、やや改まった格好の莉亜はベッドを降り、家庭教師の先生に一礼する。上はチェックのシャツで下はジャージだった。ちゃんと髪も梳かし、それなりに気合を入れた姿には病身ながらにも歳相応の初々しい美しさがある。

「よろしくお願いします」

 これも気分や意識のモチベーションを高める、予備校の講習みたいなものだろうか。
 サエがリクを肘鉄に突っついてニヤニヤからかう。

「見蕩れてるんじゃないわよ? このロリコン」

「はぁ? お前、もしかして焚きつけてるのか?」

「別にー? アンタが助平そうな顔してるからよ?」

 サエとリクのやり取りを莉亜は新鮮なものを見るようにパチクリ眺めている。

(莉亜ちゃん、張り切って元気そう。良かった)

 そして密かにサエは、場合によっては適宜に(色んな意味で)リクをレンタルしてやってもいいかもしれないとは、チラッとだけ思う。少なくとも彼には亡き義妹のこともあるから、セラピーにもなるだろうし。とはいえ、それも莉亜の都合と要望次第ではあるのだけれど。

 かくして特に後ろ暗くもないはずの「特別講習授業」は幕を開けるのだった。
 けれども莉亜はあらぬことを考えていた。

(この二人って、「する」ときどんなふうなんだろ?)

 まだリクにはさしたる恋心もないから、そういうことをしたいとまでは流石に思わない。
 けれども二人の恋愛模様には非常に関心が湧く。それにこの姉貴分のサエさんが彼との行為でどんな「女の顔」になるのかには興味がなくもなかった。


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