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ドッペルゲンガーの恋人/過去からの彼女(官能オカルト連作短編)
【幼馴染 官能小説】

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夢と潜在願望-4

3
 また、あの「あられもない破廉恥な夢」の続きを見た。
 お姫様抱っこでトイレに連れて行ってもらい、見られながら用を足した個室で、そのまま勢いでファーストキスを重ねた、おそらく数日後なんだろう。
 しかもあのときよりも身体の具合は良いらしい。
 また莉亜はこの病室のベッドであの少年の見舞いを受けていた。

「あの後、リョウはトイレで何してたの?」

 夢の中だけで知っている彼は名前を「リョウ」と言うらしい(とはいえ夢を見ている莉亜はどんな字を書くのかわからなかったけれども)。
 あの出来事の後、莉亜を再びこの部屋でベッドに寝かせてから、彼はしばし席を外した。
 彼も「トイレ」云々と言っていたけれど、それでも莉亜だって漠然とは予想や理解はしていた。まだ乙女なれど、この歳になれば男の生理学の知識くらいはあるものだから。
 ちょいと天真爛漫風に小首を傾げて当惑する幼年の瞳を覗き込む。

(うわー。困ってる、困ってる)

 もっと子供の頃の彼についての思い出なんかが脳裏を過ぎり(どうやら、やはり幼馴染か何からしい?)、下世話な事柄ながらも、あんまり生理的な嫌悪感は湧かない。これがもしも他の、どこか他所の知らない男だったらまた違うだろうが(たぶん気色悪く思うだけか小馬鹿にして蔑むかのどちらかだろう)、昔から親しんで恋心がなくもない彼に関してはむしろ万事愛しいくらいなのだ。
 あそこまでやって完全に無反応とかだったら、逆に女として自信喪失かもしれない。
 さながら仔猫や仔犬の頭を指で突っつく感覚で、莉亜はふざけかける微笑さえ浮かべて畳みかけてしまうのだった。これも、日常のささやかな幸せ。

「言えないような事、してたの? ふーん?」

「ぐっ」

 目を逸らして頭を掻く少年。バレバレなのにあえて誤魔化したいらしい。莉亜は決まり悪そうな横顔を覗き込んでクスクスと笑う。
 なんだか右往左往に恥らうような様が可愛らしかったし、図を想像しただけで微笑ましくも思えたからだ。滑稽で惨めだったかもしれないが、どうだったんだろうか。

「気持ち良かった?」

「うー」

「ごめんねー、ひょっとするとコーフンさせちゃったのねぇ。リョウだって男の子だし、しょーがないよね。怒ってない、怒ってないから。全然だよ?」

 ニコニコと天使のようなスマイルを作り咲かせてお姉さん顔してやる。

「ムウゥー」

 図星を突かれて少年は不満そうな困った声で唸るのだった。

(逐一、乙女心をくすぐってくる奴め)

 莉亜は途方もなく優しい気持ちになる。幸福感のひと時だった。

「ねえ」

 目を閉じてほんの少しだけ唇を突き出す。
 これも皆まで言わずもがな、キスしてくれと身振りの妙で促してみる。
 しばらくして二度目のキスが落ちてきた。
 リョウに肩の上から抱きしめ寄せられたので、ベッドを乗り出すみたいに腋の下から抱きしめ返す。

(やっぱりこうでなくっちゃ)

 それでやっとホッとする。何しろ最初のキスがあんな風に、わけもなく悲壮で病的な成り行きだった上、しかも場所がトイレだったのだから、莉亜からすれば我ながらにも嫌過ぎる。捨てようのない特別な思い出としておくにしても、もう一回やり直したかった。
 漏れる鼻息と吐息がくすぐったく甘かった。


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