売人ヤクザを娘の仇で殺し続けるパパ-3
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防弾防火の特殊車両内部では、どれだけ暴れても破損することは滅多にない。
何度も叩きつけられた窓ガラスが血塗れになったとしても、まず割れることはない。
「お疲れ様です。最後の三戦目も完全勝利ですね」
あの車掌(代理)カリーナがドアを開けると、床には流れた血の臭い。
斉藤氏は血に汚れた背広で天井を見上げて悲壮な虚しさの面差しである。
「もう処理してしまいましょう。お任せくださいませ」
カリーナは小型火炎放射器で楽しげに、手足を完全に折り砕かれ、内臓破裂している金木昌彦を顔からボーボーと焼いた。瀕死の全身が燃え上がり、ストーブの上のスルメのようにくねって、金管楽器のような臨死の苦鳴を上げている。
あくまでも目許涼しげなカリーナの顔は炎に照り映えている。事前にスイッチで用意周到にも窓を開けていて、燃え出した半死体からの荼毘の煙がモクモクと流れ出していく。
クエー、クワーと啼く。燃える男は大ガラスのような音色でのた打ち回る。
「いい声ですこと、オホホ」
「……いや、それはあんまりじゃあないのか」
「でも、『生きたまま焼き殺してやる』、『楽には殺さん』でしょ?」
「それはそうだが……」
わざとらしい笑い方をするカリーナの残虐行為に斉藤は眉を顰めつつも満足げでもある。
優しげな表情で彼は言った。
「私がやろう」
受け取った火炎放射器を構え、燃えながら苦しむ致命傷の金木に青い炎を向ける。
「も〜えろよ、もえろ〜よ〜」
斎藤は歌った。最初は鼻唄のように、じきに朗々と。
「ほのおよ、も〜え〜ろ〜! 火〜の粉を巻きあ〜げ〜……」
さりげなく手拍子を取るカリーナは面白そうに無残な景色を眺めている。
断末魔に泣き叫びながら炎で炙り殺される瀕死の男。
とっくに容赦なんかは微塵もなく、鋼鉄のような平常心で焼き尽くしていく。泣き叫んでも一切を無視し、かえって真っ青な高温度の炎でその舌を焼いてやる。それは怒りと悲しみを越えた先にある感情麻痺のなせる業なのだろうか。
表面を焼かれても内蔵が焼けるまでには時間がかかる。
ついに動かなくなるまでには十五分くらい懸かったかもしれなかった。
ここまでやれば、たとえ蘇生しても絶対に助からないだろう。
「アラマァ、見事な姿焼き。茶道のお花墨のようですね。……如何でしたか?」
カリーナは燻る人の形の消し炭を前に斉藤に話しかけた。
「ありがとう。……私の世界の娘は、もう返っては来ない。けれど、違う世界では、少なくともコイツのせいで死ぬことはない。コイツから被害を受けて不幸になる人も出ない。それだけでも、私にはどれだけ心の救いになるかわからない。ありがとう」
これで彼の世界とは違う平行世界(パラレルワールド)の、三人の別のハルカを助けた勘定になる。
ついに想い極まって泣き出してしまったのは、車掌の少女カリーナが、娘の姿の思い出と被ったからなのだろうか。
「お疲れ様のついでで、こんなのをご覧になってください」
彼女が差し出したスマホには、ハルカのあられもない姿が。おそらく年下であろうと思われる少年と淫行の真っ最中。
「……」
写真風景をパラパラ捲りながら突きつけられ、斎藤氏は呆然となっている。
画面を操作して、音まで出す。今度は動画だった。
「あ、いや。その、やめてくれ」
斎藤氏は戸惑ったように頭を振った。無事に成長した娘の、親として戦慄すべき光景ではある。