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ネメシス・コアラの逆襲
【コメディ その他小説】

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売人ヤクザを娘の仇で殺し続けるパパ-2

 穏やかな眼差しのリーマン斉藤は静かな口調で問いかけた。

「君は、麻薬を売っているね? ヤクザのお仲間と、随分と酷いことをしてくれたみたいじゃあないか? お前はどの世界でも同じ様なもんだよなァ」

 ペキリポキリと拳を鳴らしながら復讐の由縁を語る。

「君らの所業で、どれだけの人が不幸になったかわかっているのかね? かく言う私もねぇ、君や君らのお仲間のおかげで、娘のハルカを殺されたんだよ」

 それこそが彼が「復讐者」である理由。
 一方、昌男君は相手が既に丸腰だと見るや、元気を取り戻したようだった。

「ハァ、オッサン。脳味噌湧いてるんじゃね〜の?」

「私の世界では『お前はもう死んでいる』。なぜならば『私が殺したから』だ。しかしお前は平行するどの世界でも、下らん悪行に手を染めている。お前のいる世界で、これ以上の犠牲者が出たり、ハルカが死んだりしないように……頃(ころ)して廻っているんだ」

 完全に狂った話だった。
 けれどもリーマン斉藤は大真面目なのだから救いはない。
 そして金木昌男が麻薬の売人をやっていて、強請りタカリの脅迫や振り込め詐欺などで金を儲け、娘をかどわかして売ったりしているのも真実ではあった。直接人を切りつけたり刺したこともあるし、一人二人は直接に殺している。そして彼の犯罪で被害に遭ったり犠牲になった者の中には、斉藤の娘のハルカのように死んだ者まで何人かいる。

(いったいどうなっているんだ?)

 金木は呆気にとられながらも小首を傾げる。
 思い起こすなら、この列車に乗る際に不自然なほどに人がいなかったし、この車両からしてなんだか変ではあった。まるでアナザーワールドに迷い込んだようなおかしな予感に苦笑いするが、あるいは本当にそうなのかもしれない。
 そんなバカな、と考え直す。
 常識的に考えれば、被害者が裏で徒党を組んで細工して、こんなふざけた復讐の舞台をでっち上げたのだろう。あるいは警察なども手伝っているのかもしれなかったが、たかが小物でしかない金木昌男にそんな手間をかけるとも思えないし、やはり私的な復讐の可能性が高かった。
 たぶん、彼を嵌めるための「罠」だったのだろう。
 その認識はオカルトな事情を別とすればあながち間違っていない。これは「ネメシス(復讐女神)の懲罰列車」なのだから。
 それでも刑場の死刑囚は従順であるとは限らず、抵抗を試みることも多い。

「ああんっ? テメー、よおっ! ワレ、舐めとんか?」

 威嚇的に顔を顰めて叫ぶ金・昌。
 ポケットからナイフを抜き、勝利の予兆でも感じたか優越的な態度をとる。
 その思惑こそが甘かったのだ。

「そうくるかね? 君はいつも、そういう下らない玩具を持っているよねぇ」

 リーマン斉藤は伸縮式の警棒をシュッと伸ばした。

「言っておくけれど、私はこれでも剣道初段だよ。今はこんなのだが、学生の頃には六年くらいやりこんだものだ。……どうせ君ら、そういう鍛錬なんかろくにやってないんだろう? 強い相手に敵わないから、弱い人や弱い子ばっかり虐めてるんだろう? ほとんどのヤクザやチンピラなんて、そんなもんだよなァ? 本当に強かったら自衛隊か警察の特殊部隊のエリートか、競技選手や武道の先生にでもなっているだろうから……」

 斉藤さんは悪魔の顔をしている。

「でもたしか、君は喧嘩のためにボクシングをほんのちょっとだけやっていたんだったか? そういう努力は少しだけ評価するけれども、道を誤ったのはとても哀しいことだとは思う。私とここで、人生最後の殺し合いを楽しもう。せめて……」

 すっと左腕を挙げ、天井の方向を指す。
 まるで古代ギリシャのグレコローマ格闘士のような、厳かな口調で告げた。

「天のイデアの世界に還り給え。魂の故郷へと……」


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