俺に舞いおりた『景品』-1
ドラッグストアで買い物してたら、開いたアプリにメッセージが入ってた。
『景品が届いております。お受け取りください。』
レジでそれに添えられていたバーコードを示すと、細長い箱を渡された。
ステンドグラス風の黒く太いりんかくで、赤ピンク黄色の花が各面に描かれた箱だったが、品名も何も書いていない。
家で開いてみると、駄菓子の「ナンとか棒」くらいある太く長い円筒形の金属の器具が出てきた。本体に文字が浮き彫りされてる。
はじめ『レイプ』と書いてるのかと思ったら、『vape』……電子タバコだった。
小さな説明書が入ってる。直訳風の文章で
・この電子煙草は男性専用です。
・あなたが放つ煙で女性を獲得することが可能です。
・女性に決してこの煙を吸引させてはいけません。
……あとは、充電方法が記されている。
(ドラッグストアでオナニーグッズ売る時代だから、)
下部の端子にスマホの充電器をつなぐと、vapeの文字の一部が赤く光り、やがて緑になった。
親と一緒に公営住宅の一室に住んでる俺は、部屋にニオイがつくとマズいので、非常階段の踊場で『試し吸い』してみた。
器具の端を口に当て、吸いこんでみるとそれだけでスイッチがONになり、口を放すと煙があふれてくる。
俺の初めての喫煙……でも、
(火事の焼け跡で深呼吸したみたいだな。いがらっぽいだけだ。)って印象だった。
その時だ。
「ちょっと、板取さん。」女のひとの声がした。
振り向くと上の階の若い奥さんが立っていた。
「いつもここで煙草吸ってるの板取さんなんですか?煙がベランダに流れてきて、洗濯物が臭くなるんですけど……」
「いえ……、俺は吸ってません。」
「いま吸ってるじゃないですか!」
「あ、あの……」と俺は立場が悪くなったどさくさに、器具を口にして吸いこんだ煙を、
フーッ
と奥さんに吹きかけてみた。
「え、えええ……」
奥さんは煙を顔に受けて、フラフラとした足取りになり、階段の壁に寄りかかってる。
「ごめんなさい……大丈夫ですか?」俺が腰に手を当てて支えようとすると、奥さんは
「む、胸が…… う、うずくの…」と言いだした。
「胸?」俺がとっさに手を胸にやると、奥さんは俺の手に自分の手を重ねた。
「触って…… もっと強く触って……」
とは言われたけど、俺は困った。
「奥さん、ここだと向かいの棟から見られてしまうから、奥さんの家に行きましょう……」