飲み会の後に-2
通された座敷席は、大衆居酒屋らしい騒々しさに満ちていた。
ビールのジョッキが次々と運ばれ、ポテトフライや枝豆、焼き鳥等がテーブルに並べられる。
こういう場所は嫌いではないけれど、疲れた身には少し堪えるのも事実だ。
「かんぱーい」
カチッとグラスを合わせて、里帆が無邪気にはしゃぐ。
今の仕事のこと、先輩のこと、最近行ったレストランや居酒屋のこと、引っ越し、そして恋愛。
「そういえば蓮はさぁ、前付き合ってた子どうなったの？」
「何それいつの話だよ、就職してすぐ別れてるんだけど」
「あれーそうだっけ？」
「お前、自分が振られたからって人の過去えぐんなよな」
「うるせえよ、振られたんじゃねーよ自然消滅だよ」
そういえば、まだ就活していたとき、元カノの先輩を紹介してもらってから、蓮はその手のことを全く話題にしなくなった。
(あのときも、最低って思って、そう言った気がする)
実際に会った先輩は、小柄で花柄のワンピースが似合う、少女のような人だった。笑顔が優しく、言葉を選びながら質問に答えてくれた。
こんな人に好かれて、付き合っていた蓮をすごいと思った。
そしてその分、こんな人を放って他の人に心を移したと聞いたときの落差は激しかったように思う。
今、先輩は職場の人と結婚して産休中だ。
(先輩とのときは、どんな感じだったんだろう…)
あんな小柄な、壊してしまいそうな人を、蓮はどんなふうに抱いたのだろう。
先輩は、どんなふうに蓮に抱かれたのだろう。
やっぱり真正面から、優しく？
はっ、となって、頭の中の光景を追い払う。
生々しい。
駄目だ。
「美夜は、今彼氏いないんだよね」
「うん、欲しいけど、ね…」
話を振られて、当たり障りなく返す。
今は特に、その手の話題に巻き込まれたくない。
「へえ、いそうなのにな、彼氏」
「うん、入社したときとなんか雰囲気変わったし、彼氏いるのかと思ったけど、違うんだ」
不思議そうに目の前に座った同期が言った。
「そう、かな」
そんなふうに見えていたのだろうか。自覚はなかったけれど。
雰囲気が変わるようなことがあったとすれば、それは…
視線が無意識に、蓮の方へ彷徨った。
ばちり、と目が合う。
ぞくり、と背筋が泡立った。
(「吸い付いてくる…昨日のオレのカタチ、ちゃんと覚えてくれたみたいだな」)
犯された朝、蓮が満足そうに言った、あのとき。
今蓮は、そのときと同じ目をしていた。
その目に何かのタガを外されたように、身体の最奥から、とろりとした液体があふれたのがわかった。