姑(しゅうとめ)の青春-6
6.
落ち着かない日々を過ごして、2か月が経った。嫁の千代子の懐妊がはっきりした。家には、喜びの気配が満ちた。
静枝には妊娠の気配はなく、もろもろのトラブルを避けられたことでホッとする一方、愛する人と結ばれながら、愛の結晶を喜べない自分が恨めしかった。淋しい。
良和恋しさが募って、電話をした。
「千代子さんに赤ちゃんが出来たのよ」
「ええ、千代子から聞いています。いろいろお世話を掛けますが、よろしくお願いします。実は僕の方にも子供ができまして・・・」
「それはおめでとうございます。奥様はお元気ですの?」
「はい。お陰様で、・・・実はこちらから電話をしようと思っていたのですが、・・・アルゼンチンへタンゴのグループで旅行に行く計画がありまして、お誘いしようかと・・・」
「奥様はどうされますの?」
「子供が出来たので、家で大人しくしていると言うので、お義母さんの都合がおよろしければご一緒にどうかと思いまして・・・僕は家にいても何の役にも立ちませんから・・・」
「良和さんさえよろしければぜひご一緒させて頂きたいわ、一人では行かれませんものねエ」
嫁にも愛する人にも子供ができた。静枝は一人取り残された。幸い良和さんは以前と変わらぬ態度で接してくれる。妻の妊娠で、性生活に不自由をしているのだろう。いづれはけじめを付けなければならない日が来るのは分かっている。
閉経した。妊娠する心配はない。良和さんが求めるなら、失われた青春の日々を良和さんとともに過ごしたい。若し来世というものがあるならば、そこで再出発をしよう。出会って、恋に落ちて、燃えたぎる愛の日々、そして愛の結晶を・・・。
ブエノスアイレスでは、昼間はタンゴのレッスンを受け、夜はミロンガに行くのだという。それぞれがパートナーを伴った8人が成田空港に集まった。地球の裏側のブエノスアイレスまでは、ロサンゼルス経由で25時間だ。
静枝には、初めての海外旅行だ。夫は構ってくれない代わりに、何をやっても反対をしない。真新しいパスポートが、宝物のように見える。
ブエノスアイレス市内のホテルにチェックインを済ませて、夜のミロンガまで自由行動になった。参加者はすでに何回も来た経験がある。荷物を部屋に置いて、三々五々と出かけて行った。
静枝は良和に伴われて、3階の部屋に入った。窓から、南米のパリと謳われた豪壮なビル群が目を奪う。良和はドアの外にDo Not Disturb の札を掛けると、ドアをロックした。静枝は窓のカーテンを閉じた。
「静枝さん・・・」
静枝は、良和の胸に吸い込まれた。
「良和さんっ」
良和に唇を吸われ、静枝は良和の背中に腕を回した。
「逢いたかったわ〜逢いたかったの」
「やっと〜二人になれたね」