深夜のオフィスで (4)-1
「あーーん」
「はい、あーーん」
大きく口を開けて待つ長男に、妻がパフェを食べさせている。
「あーーーー」
「はい、あーーーー」
私も同じように、下の子の口へとプリンをせっせと運ぶ。咀嚼を待つ間に今度はショートケーキをフォークですくい妻の口元に持っていく。
「はい、あーん」
「うふふ、ありがと。あーん……もぐ……もぐ」
ぱくりと食いつき、にっこり笑うゆき。ショッピングモールのフードコートに座る彼女は、すっかり母親の顔である。化粧っ気もなければ髪も後ろで簡単に束ねただけ。三十の峠も越えた妻はしかし、その美貌にいささかの衰えも見せていない。経産婦となり下半身がいささか肉づいてきたことを本人は気にしているが、尻と太ももにぴたりとフィットした細身のデニムはどうみてもすらりと格好良い。
それにしても、今日はなんとのどかな休日の午後であることか。共働きでの二児の子育てという嵐のような日々にたまに訪れる、束の間のゆったり時間。子どもが食べ物をこぼしたりぐずったりでまたすぐせわしなくなるまでのわずかな時間なのはわかっているが、食後のコーヒーとデザートをゆっくり楽しめるだけでも上出来である。
「いちご、食べる?」
母の問いにぶんぶんと首を横に振る子どもたち。日頃から「ショートケーキのいちごは酸っぱい」という刷り込みを受けて育っている。
「……そうね、じゃあパパ。はい、あーん……」
「あいよ。あーん……もぐ……もぐ……んーー」
私が顔をしかめると、妻が目を細めころころ笑う。彼女の唇の端に生クリームが付着しているのを見つけ、私も笑った――。