プレゼン-2
美夜の表情に妙に陰があることに気づいたのは、たぶん俺だけではなかったと思う。物憂げで、視線が時々所在なげに彷徨っている。
いつもなら相手を真っ直ぐ見てしゃべる美夜には珍しい。声も少し掠れている。
体調が悪いのか。
やりすぎた?
昨日した直後は、声も普通だったはず。
風邪を引かせたのかもしれない。
しかし、さすがに話し方には淀みがなく、いつもより静かな声である分、なんというか、聴かなくては、と思わせるプレゼンだった。
「こちらの商品は、皆様の、一緒に生きていく方も含めた生き方に、ほんの少し彩りを添えるだけです。
けれど、そのために我が社の開発部は、喜びと自信をもってこれをつくりました。
その熱意をこうしてお伝えできる機会をいただきましたことに、心より、感謝申し上げます。ありがとうございました」
そう締めくくり、壇上から静かに、深くお辞儀をした美夜に、会場からは自然と拍手が湧いた。
「なんか、いつもより一歩引いた感じだったけど、良かったな、初瀬さん」
「うん」
「落ち着いた感じっていうか、いや、いつも落ち着いてるんだけど、ちょっと違ったよな」
「それ。なんつーの、色っぽい、って感じ?」
「うわー言ったら怒られそう」
周りの同僚から口々に感想が漏れる。
色っぽい?
そんなふうに見えているのか、あの表情は。
俺はもやもやとしたまま、美夜がいるはずの裏へ向かった。
体調の問題なら、俺のせいだ。