想いの行方【half】-2
「ふぅ、やっと見つけた」
手に救急箱を持った速水くんが今でも鮮明に思い出せる。
速水くんは窓側の隣りの席に座り、救急箱から消毒液を取り出した。
「腕、手当てしないと化膿する」
「……何で?」
「ん?」
「………ありがとう」
心の大怪我で、誰も私の腕の怪我には気づかなかった。私があの場から去っても気づく人なんかいなかった。
なのに速水くんだけは気づいてくれた。
そういえば矢田くんがいつか言ってた。
『俺、英士のことすっげー好き!あ、変な意味じゃなくて。男前だし、気が利くし、性格いいし、周りのことよく見てるし!俺って単細胞だから一つのことしか気いかねーからさ、まじ尊敬してんだ』
私も単純だから、たったあれだけのことだけどすぐ気持ちが動いてしまった。
静かな教室で手当てをしてくれる速水くんを純粋にいいなっと思った。何だか分からないけど泣けてきてしまって、だけど速水くんは何も聞かないでいてくれた。その優しさにまた涙が溢れてしまったの。
あれからもうすぐ半年が経つけれど、速水くんは相変わらず優しくて、周りをよく見ていて、かっこいい。矢田くんと心のことも何をしたのか分からないけど、あの二人がうまくいったことに間違いはなくて、何も語らず笑っている速水くんはやっぱりいいなって思う。
だけど、ときどき切なそうに見えるときがあって、それが何故なのか分からないけど…。
「嘘も方便だから」と言った速水くんにクッキーを渡したとき少し切なそうな目で『ありがとう』っと言った。本当は告白しようと思っていたんだけど、何故か私は言葉を呑み込んでしまった。
手当てをしてくれたあの時の速水くんの表情は逆光でよく見えなかったけれど、桜が舞い散る夕日の中少し切なそうに微笑んでいた気がする。
まだ気持ちは伝えてないのだけれど、いつかあの切なそうな顔からありったけの笑顔を向けてくれる日を……………
あなたに恋した春の頃から夢見ています。
END