講堂で-1
あの日から1週間、蓮とは口をきいていない。
蓮も話しかけて来なかった。同じ部署だから顔は見るけれど、合同プロジェクトをしているわけでもないし、今はそれぞれ別にサポートしてくれる内勤の人もいるから、話す必要もない。
怖かった。
蓮と話すのが怖かった。
面と向かって話せば、自分の中の訳の分からない怒りを抑えるのは無理だろう。
けれど、怒りに任せて蓮を罵倒するようなことはしたくなかった。
そんな、ヒステリックな女だと思われたくなかった。
あの日、蓮に抱かれて、私の中で蓮は意識すべき異性になってしまった。
気安く話しかける対象ではなく、どう見られているか気にし、かける言葉を選ぶべき対象に。
好きか嫌いか、そういうことを考えてしまう対象になってしまった。
ああ、嫌だ。
いけない、集中しなくては。明日は新商品の顧客向け体験会だ。
ちゃんと説明できないと、お客様の不信を買ってしまう。
本番同様にテストしたいからと、無理に前日の夜から鍵を借りたのに。
プレゼン用の資料がスクリーンにきちんと映っているかチェックし、一度原稿の最初を読み上げてみる。
(ちょっとマイクの音、大きすぎるかな)
マイク室へ入り、調整をしていたそのときー。
ガチャン
人の気配とともに、鍵のかかる音がした。