悪党達の末路-3
美鈴が、北島から聞いた事を刑事に話すと刑事は頷き、大原源蔵射殺事件を担当している課はその線も追っていると言う。だが松方は、依頼をする為に山海の弁護士に会ったと言い張り弁護士の方もそれを主張したと言う。松方は、菅原と会った事実は認めたが、依頼人に頼まれた用件で守秘義務を盾に依頼人を明かさなかった。
刑事が言うには、射殺犯達が悪党、大原源蔵を自分達の意思でやったと主張しているらしい。射殺犯達は、全員70過ぎの元ヤクザで金に困っていたとの事だ。犯行に及ぶ数日前に菅原の団体の下部の右翼団体に入ったとの事だ。菅原自身も事件への関与を否定していた、だが事件前に上部団体の方には一身上の都合として除籍を申し出て受理されていた。
猛は、入浴も許され明日から通常より早いもののリハビリで簡単な運動をする所まで回復していた。リハビリ後に検査をして問題なければ少しずつ体に負荷を掛け検査して日常生活に戻れると判断されたら退院出来ると言う。だが今暫くは、入院生活は続く。
今は、美鈴の両親が昼間の間、猛の着替えと洗濯物の交換などで食事制限も無いので果物などを持って来て一緒に食べると帰る様になっていた。猛が通いで大丈夫だからと祖父母に頼んだらしい。実際、猛はとても元気そうに見えた。
相変わらず琢磨が、度々見舞いに来てくれ学校で合った面白い出来事を話して聞かせて来るらしい。美鈴は、猛に優花の家の場所を聞き夕方位に訪ね、若者に人気のブランド物のスカート、ブラウスなどをプレゼントした。
ブランド名は、琢磨から、実際は琢磨が優花と仲の良い自分の彼女から聞いたのを参考にしたのだった。優花は、凄く喜んでくれて返って悪いと言ったが美鈴は、優花が差し入れてくれた衣類は本当に助かったと言って遠慮しないで受け取って欲しいと伝える。
そんなある日、猛を見舞うと美鈴に囁く様に、
『入浴する時に一緒に入って。』
『母さんに抜いて貰いたいんだ。』
と恥ずかしそうに言う。続けて
『前見たいに凄く立つんだ。』
『看護師さんに見られた事も有る。』
『何とかして。』
と言って来る。美鈴は顔を小刻みに振り、
『私がここに来るのに警備の警官の方達、公用車の運転手の方が付き合って下さるのよ。』
『そんな事は、出来ないわ。』
と言い聞かせる様に言う。猛が俯き、
『分かった、母さんの言う通りだ。』
と言う。美鈴は囁き声で、
『退院したらね。』
と恥ずかしそうに微笑む。猛は笑顔で、
『うん!』
と返した。美鈴は、課長にも警護の責任者にも、大原が死亡してもう警護の必要は無いのではないかと伝えるも検察も警察も未だ早いと難色を示す。大原や黒川の関係者の動向が気に掛かると言うのだ。
美鈴も猛との関係が無くなり寂しく思っていた。だが、周りの環境や猛の体の事を考えると猛への愛撫だけにしても憚られ出来なかった。
美鈴が夜中に新聞を読んでいると、気になる記事を見付けた。繁華街の路地で喧嘩の末に、マジシャンが死亡したとの記事だ。その喧嘩相手が大原源蔵の射殺に関与したされる菅原の右翼団体の下部組織構成員だったからだ。
大原を射殺した下部組織とは別の組織だが気になり、翌日知り合いの刑事に連絡を取りその事を話すと調べると言ってくれた。電話連絡で構わないと伝えていたが、直接来て報告してくれた。実際は、喧嘩と言うより一方的に右翼構成員が殴っていたらしい。
酔った上での喧嘩と言う事だったが、目撃者によれば被害者のマジシャンが自分の店の閉店の為に外に出た所に構成員がぶつかって行き周りが止めるのを振り切り滅茶苦茶に殴り付けたとの事だ。構成員本人は、酔って覚えて居ない因縁を付けられたと供述しているとの事だ。
通行人や周りの店の人達は、構成員はずっとその路地に立っていて、マジシャンの店の方を見ていたと話しているらしい。マジシャンの店は、マジックグッズの販売とマジックの実演、後催眠術も行なっていたとの事だった。近くのスナック店主は、催眠術を掛けているのを見た事が有ると言い、ほとんど言いなりに人を操ったと話した。
美鈴は、刑事に大原の邸宅に働いていた人や会社で大原に近い人の連絡先を教えて欲しいと言うと刑事は笑い、調べるのは刑事の仕事ですよと言いすぐに調べてくれた。刑事は興奮口調で電話して来て、マジシャンの写真を持って見せて回り大原の会社関係は無反応だったが、大原の邸宅のお手伝いや運転手は見掛けた事が有ると言う。
そして、マジシャンの店の周りにも聞き込みした結果、大原の秘書の黒川がマジシャンの店を訪れていたのが目撃されていた。刑事は、
『もしかして、山海が言っていた操られていたと言うのも本当何でしょうか?』
『山海を襲った犯人も似た様な事を言ってました。』
と言う。美鈴は、
『私もその可能性が有ると思います。』
『ですが…』
と言葉を濁すと刑事は、
『マジシャンは殺され、真相は闇の中です。』
『マジシャンは、零と名乗っていた様です。零戦の零です。』
と言う。そして、
『これも、山海が菅原に依頼したんでしょうね。』
と言う。美鈴は、
『ええ、そう思います。』
と確信めいた口調で話す。続けて、
『御足労を掛けて申し訳無いですが。』
『この件も真相は闇の中でしょう。』
『構成員が喧嘩以外の事を話すとは思えません。』
と言うと刑事は、
『私もそう思います。』
『検事、気にしないで下さい。私もこの事件に携わって数々の疑問が有ります。立件出来ないまでも真相に近い物を知りたいのです。』
と言ってくれた。美鈴は、
『ありがとうございます。』
『私も同じ思いです。』
と感謝する。