怪談話CASE1:高城時音の場合-2
「ロック…閉めたよ…。ダメ、まだドアノブが動いてる!!嫌だ…もうイヤだ…。」
声からすると、相当未紀は気が動転している。このままじゃ、いつミスを起こすか分からない。未紀を落ち着かせろ、私。
「落ち着いて未紀。大丈夫だから。私が居るから!!ロックしたんなら大丈夫。絶対入ってこれないはずだから。あとは私と会話を途切れないようにして。いなくなるまでやり過ごそう。」
警察を呼ばせなかったのは理由がある。
受話器から聞こえるドアノブの音。あの音の間隔は早過ぎる。人間の手首ではまず無理がある。ということは、未紀の家のドアの前に立っているのは、『人間以外の何か』。それしかない。そこで警察を呼んだって、冷やかしだと思われるか、現場に着いてさらに悲惨な結果になるか…だ。
「やだ、怖いよ…。私、死ぬのかなぁ?まだ死にたくないよ…。生きたい…。」
「死ぬなんて言わないでよ!!未紀は死なせないよ!絶対に、絶対に…。」
「生きたい…。死にたくない…。私、頑張る。早く帰って…。」
未紀がそう言い終わるか言い終わらないかの内に、遠くでドアの開く音がした。
「未紀!?大丈夫!?大丈夫なら返事して!!未紀!!」
「あ、あ、あ……。」
『何か』に怯えて声が発せない未紀。
「未紀…。みきぃ……。大丈夫って言って!!お願い…。」
「あ…きゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「未紀!?未紀ぃ!!どうしたの!?なにがあったの!?」
「…………。」
返事は無い。受話器の向こうから聞こえるのは、未紀の声でも、ドアノブを動かす音でもない。テレビの砂嵐、吹き抜ける風の音。
「未紀…。どうしたのよ…。なにがあったのよ…。」
途方に暮れる私。
恐怖は、まだ終わっていなかった。
ガチャガチャガチャ!!!!!
「ッッ!!!!」
ドアノブが激しく動く。残像さえ見えるほどに。私一人の部屋。ドアノブの音のみが鳴り響く。
もちろん私もロックはしてある。だが未紀のそれは無駄だった。となると私のもそんなに期待は出来ない。
「私にも来たの…?なんなのよ…。一体どうなってんのよぉぉぉ!!!」
私の叫びも虚しく、ドアノブの音に掻き消される。
「…お願い…来ないで…。開けないで…。」
トイレに逃げようと考えたが、相手はドアのロックが外れるほどの力。トイレのドアなんかが持つはずがない。ましてや逃げ道が閉ざされるし。逃げることが出来れば、の話だけど。
ここまできて至って冷静な私。相手はドアに居る。ここはマンション4F。飛び降りれば死ぬ。つまり、密室。ここで暴れ騒いでも意味はない。無駄な体力を使うだけだ。