「向こう側」第一話-2
ズズッ
そこには固く塗装されたものとは思えないほど何の感触もなく指が通り抜けた。
スグルの胸の高鳴りは最高潮に達しいてもたってもいられず天井に向かってジャンプした。
ズッ ダンッ
スグルが着地した先にはさっきあったベッドではなく別の部屋の床であった。
近くにあの石が転がっていたので拾い上げ、あたりに何か変わったものはないか確認する。
西洋風の家具がいたるところにあるだけで、これといって変わったところはない普通の部屋だ。
いやに静かなことをのぞいて
急にスグルは背筋がゾッとしたこのまま帰ることができないような気がしたためだ。
冷静に考えてみると投げた石がこっちに戻ってこなかった時点で一方通行ということに気がつくべきだった。
見たところこの部屋の出入り口になりそうなのはドアと大きめの窓だけのようだ。
ドアを開けて何かに遭遇するのを避けたかったスグルは外の様子を確認するために窓から身を乗り出してみる。
向かい側にはビルの屋上が見え、何もおかしな様子はないふつうのオフィス街というかんじである。
ある点をのぞいて
「うわぁ……」
スグルは思わず声を漏らした。
スグルがいたとことはちがって空は真っ暗であった、しかし地面はというとライトアップでもしているかのように淡く光っていてどこか神秘的だった。
そんな光る道路を行き交う人々を眺めながらスグルはここは一体どこなんだろうと物思いに耽っていた。
だが一分と経たないうちにその沈黙は破られた。
バタン!
下の方でドアが開く音がした。
ダッダッダ…
今度は階段をかけ上る音が聞こえてくる。
ヤバい こっちに来る!
そう思ったスグルはどこか隠れる場所を探したがスグルが思ったより早く音の主は部屋に入ってきた。
バン!
「逃げるぞ!!」
ドアを荒々しく開けて入ってきた男はスグルに向かって走りながら叫んだ。
「えっ?逃げるって一体どこに…うわっ!!」
自分の言いたいことを言い終える前にスグルはその男に抱きかかえられた。
そして男はそのままのスピードでまっすぐ窓に向かって走っている。
「え…ちょっと…冗談でしょ?」
この男がやろうとしていることに感づいたスグルは危機感を感じた。
それもそのはず向かい側のビルまでは軽く五メートル近くあるうえに子供とはいえ高校生をかかえたままそのビルに到達するのは普通の人間なら明らかに不可能だからだ。