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『消えない記憶、抜けない刺』
【女性向け 官能小説】

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『消えない記憶、抜けない刺』-1

さわ…さわわ…
風が渡る。
ゆら…ゆらら…
すすきの穂、揺れて。
『もういいかーい』
遠くからの声に
『もういいよー』
答えて。
ゆら…ゆら…ゆら…

バサッ…バサッ…
すすきを踏む音

見つかっちゃったかな?
振り返るとそこには、見知らぬオジサン。
『おじょうちゃん、かくれんぼかい?』
馴々しい声に、気持ち悪さを感じながらこくりと頷く、私。
『そうか、おじさんが隠してあげようね』
伸ばされた手が、幼い体を滑っていく。
『…ぃゃ…』
『声出したら見つかっちゃうよ?』
声を奪ったのは、口を覆った分厚い手。
動きを封じられたのは、恐怖。
首を這い回る、なめくじのような舌。
ドサッ……
土の匂い、薙ぎ倒されたすすきの葉が体をちくちくと刺す。
やめてえぇぇぇ!!
みるみる私の体が大きくなって、手に触れた石を掴んで立ち上がる。
そのまま、振り下ろす。男の後頭部へと。
『ぅ……』
男が呻いて、倒れる。一面、血色に染まる。
ぐらり、男の体が傾いで、別人に変わる。
いやあぁぁぁ!!センパーイッ!!


――午前二時、私はベットから跳ね起きて、手のひらをじっと見つめていた。
生々しい血の感触。でも、それは幻。
毎晩、繰り返される悪夢。
それは、私の記憶。誰にも言えないまま封印していた記憶――

今、思えば私は幸運な方だったのだろう。
そのまま殺されたり、すべてを奪われたりする子たちに比べたなら。
それでも、あの日から、大人の男性を忌避するようになった。
背後に人が立つと恐ろしさに悲鳴をあげそうになることもあった。
自意識過剰だよ、なんて言われたこともある。
そうして時が過ぎて、いつの頃からか、男性を異性と意識せずに、同じ人間と言い聞かせることによって、恐怖心や嫌悪感を克服していった。克服出来たと思っていた。
この高校で、美術部の安井直人先輩に出逢うまでは――

成長するにつれて、恋愛対象も年齢があがっていくのは当然のこと。
高校生ともなれば大人とほとんど一緒で。
一度、異性と意識してしまったなら……
話したいのに、嫌悪感が込み上げる。
側に行きたいのに、恐怖で足が竦んで動かない。
先輩は、アイツとは違うのに――

毎夜、夢の中でアイツを殺すたび、それはいつの間にか、安井先輩に変わっている。
何度も何度も、大好きな先輩を殺してしまう。
私は、もう好きな人と触れ合うことが出来ないのかも知れない……
近付いたら、触れたら…傷付けてしまうかも知れない、殺してしまうかも知れない、から――
そうして5ヵ月が過ぎていった。


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