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『消えない記憶、抜けない刺』
【女性向け 官能小説】

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『消えない記憶、抜けない刺』-2

もうすぐ文化祭がある。我が美術部では、個人製作の他に巨大壁画を描くのが恒例になっている。
もちろん今年も夏休み中から準備して、放課後も遅くまで残って壁画に取り掛かっていた。
そう、この日も――

時が経つにつれて、少しずつ心の動揺を隠すことも上手になってきて。
つい、油断した。
気付かなかった、いつのまにか二人きりになっていることに。
色を塗るのに夢中になり過ぎて。
突然に
『あのさ?』
背後から肩に手を置かれて。
ガチャン!
『いやあぁぁ!』
理屈じゃなかった。手から零れ落ちたパレットと筆が、床を赤く汚した。
『…ごめん』
私のあまりの拒絶に、顔を引きつらせながら先輩は言った。
傷付けてしまった、優しい先輩を。
『そんなに君に、嫌われているとは思わなかった。俺、帰った方がいいな』
先輩が背中を向けた。
『違…っ違…』
行ってしまう…伝えなきゃ…行かないで…行かないで!
『…きなのに、こんなに好きなの…に』
先輩の足が止まった。
『え…っ?』
先輩が駆け寄ろうとする。
『待っ、そ、そこに…いて下さい…』
まだ震える体を抱き締めながら、やっとそれだけを言う。
『うん…分かった』
不思議そうな顔で、先輩が私を見つめる。
『俺、君のことが好きで、告白しようと思っていたんだけど』
そう、苦笑しながら言った。
『あ、あの…話…私の話を聞いてくれますか?』
『うん、いいよ。俺に話したいこと全部話して?』
そう、優しく笑って。
私の長い、支離滅裂な話を辛抱強く聞いてくれた。

そして、ぽつりと
『…俺、男だから君の苦しみや痛みを全部理解することは出来ない。』
『…うん』
『でも、良かったら、リハビリって言えばいいのかな?俺にも手伝わせてくれないか?』
『…えっ?』
『君の心の傷を、俺が塞いであげたい』
私の目から涙が溢れて、先輩の顔が滲んだ。
『は…はい…よろしく、お願い…します』
そうして、安井先輩とのお付き合いが始まった。

3ヵ月後、ぎこちなかった会話もスムーズになって、『安井先輩』から『直人先輩』へ呼び方が変わる頃には、手を繋げるようになった。
とても、暖かい手で涙が出た。

半年後、一緒にいることが当たり前になる頃、初めてキスをした。
人はこんなにも優しく触れ合えるものだと、初めて知った。

そしてあの日から、今日で一年になった。

抱き締められて、優しく触れ合うだけのキス。
だけど、今日はやっぱり緊張してしまう。

『恐い?』
私の目を覗き込んで、先輩が問い掛ける。
『少し…でも…直人にして欲しい…』
顔が、とても熱く感じる。
『うん…』
先輩の手が服の上から優しく労るように、全身を撫でていく。
ボタンに手が掛かって、少しずつ顕わになる、肌。
『綺麗だよ』
強張った私に、優しく囁いて
『あまり、見ないで…』
いつの間にか、恐怖心よりも羞恥心の方が上回っていた。
先輩の手が、太腿の付け根の間に滑っていって
『やぁ…ん』
思わず出た、甘い声。
『入れて、いいか?』
先輩の言葉に頷きを返す。
押し広げていく、先輩のソレ。ミシッと軋む内部。
『痛っ……』
零れ落ちそうな涙こらえて
『やめようか?』
心配気な顔をする先輩に、ふるふると首を横に振って
『や、めないで…』
深く届いたところで、先輩がゆっくりと顔を近付けて、唇が重なった。
『好きだよ…』
『私も…』
もう、私は涙流れるままに。

あの記憶はたぶん一生、消えない。
けれど、今はそれごと包んでくれる人がいるから。
きっと、心に刺さったままの刺もいつか
抜ける日がくる――


[完]


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