the goddess of victory-1
「大山、ラスト一本いくか」
「はい、お願いします」
息を整えてスタート地点に立つ。
勝負は三日後。
「よーい」
今のところコンディションは悪くない。
このまま順調にいけば確実に新記録を出せるだろう。
それに今回の俺は更にひと味違う。
パンッ―
なんたって勝利の女神が側に居てくれるんだから。
「よし、今日はここまで。くれぐれも怪我には注意して下校するように」
「お疲れ様でした」
用具を片付け、各々帰り支度を始める。
俺は電気がまばらについている校舎を見上げ、自分の教室を探す。
周りが真っ暗な中一つだけ電気がついている教室が俺のクラスだ。
そこで女神が俺が終わるのを待っているはずだ。
頼は暗い校舎に一人で退屈していないだろうか。
早く会いたい。
鞄から携帯を取り出し終わったよとメールする。
教室の電気が消えたのを確認し、待ち合わせ場所の昇校口へ向かう。
頼に会いたい気持ちが歩く速さを自然と上げる。
昇校口に着くと先に頼が待っていた。
「お待たせしました」
頼に駆け寄ると、
「お疲れ様」
頼はいつも笑顔でまずこう言ってくれる。
この笑顔を見ると、さっきまでの部活の疲れは一気に吹き飛んでしまう。
頼は可愛らしいというより綺麗や美人という方がふさわしい。
頼の笑顔をみて時々こう思っては俺にはもったいないと思ってしまう。
付き合う前は、俺には高嶺の花すぎだと何回も諦めかけていたっけ。
「いつ見ても気持ちよく走るよね。そこだけは尊敬するわ」
「そこだけかよ」
そんな他愛もない会話を時々しながら手を繋いで歩く帰り道。
俺は一日でこの時間が一番好きだ。
二人きりでいられる唯一の時間。
別に話をしていなくてもこの空間が心地いい。
頼が側に居てくれればそれだけで充分だ。
俺達がこんな関係になったのはつい二日前で、クラスの女子に言われた一言につい口を滑らせてしまった。
本当は県大会後の全国大会で女神にきてもらおうと思っていたのだ。
まあ後でも先でも彼女が俺の告白にOKしてくれなければ意味がないのだが。
終りよければ全てよしってことで。
「送ってくれてありがとう」
「いいえ、いつも待っててくれてありがとうな」
歩いて十数分、彼女の家に着く。
もっとこの時間が長く続いてほしいのに。
「頼」
彼女が玄関のドアを開けようとする前に、俺はダメ元で密かに考えていた頼みをする。
「何?」
「日曜、弁当作ってきてよ」
「は?何よ急に」
頼は冗談だと受け止めたのかおかしく笑う。
「頼の愛妻弁当で元気百倍になるよ」
「何言ってるのよ。第一、妻になった覚えはないけど」
「いいじゃんか」
俺は口を尖らせて言う。
「調子に乗らないの。じゃあね」
そう言うと頼は俺の頬に軽くキスをして家に入っていった。