the goddess of victory-2
「ちぇっ」
仕方なく自分の家の方へ歩き出す。
なあ、頼。
俺は浮かれ過ぎているのか?
想い続けてきたおまえと付き合うことになって。
試合を見に来てくれるだけでいいのは確かだ。
でもそれ以上に俺はおまえに求めたくなる。
これって欲張りなのかな。「なあ、敏弥はどう思うよ」
日付は変わって金曜の昼休み。
俺は毎日一番仲のいい敏弥と、晴れた日は屋上で昼飯を食べる。
「祐輔はいつも話が唐突過ぎる」
「何も言わなくても頭のいいお前ならわかるだろう」
「わからないって」
敏弥は呆れながら言い、更にこう聞いてきた。
「そもそも何で白石さんが勝利の女神な訳?」
「話してなかったっけ」
俺が聞き返すと敏弥はガクッと肩を落とす。
「教室戻るわ」
ゴミをまとめて立ち上がる敏弥に、俺は慌てて手を掴み引き戻す。
「話すから」
敏弥はまた元の場所に腰を降ろした。
なぜ白石頼が俺にとって勝利の女神になったのか。
きっかけは去年の体育祭。
クラス対抗リレーのときのこと。
アンカーに選ばれた俺はスタート地点に立ち、順番が来るのを待っていた。
現時点で俺のクラスは二位。
陸上部の俺が本気で走れば優勝は確実だと思っていた。
前の走者が近付いてくる。
俺はタイミングをみてリードを始める。
バトンが差し出され受け取ろうとしたその時。
前の走者がつまづきそうになり、受け渡しが巧くいかずにバトンが落ちた。
その瞬間俺は一位はなくなったと思った。
クラスの席からは落胆の声が聞こえる。
バトンを拾って走っても勝ち目はないし、走る気さえなくしかけたそのとき。
「頑張れ」
たくさんの歓声の中から聞こえた応援の声。
俺は我に変えりバトンを取る。
「頑張れ」
二度目で声の主を確認できた。
そしてその声に気持ちが軽くなり、背中を押されたような気がして走り出した。
何やってんだ、スポーツマンが途中で諦めてどうするよ。
あと彼女の声援にも答えたいと思った。
俺は全速力で走る。
ゴールが近付いてくると目の前に白いテープが張られれ、俺はそのテープを切った。
沸き上がる歓声。
無我夢中で走って、バトンを拾って走り出したときは最後だった順位が、いつのまにか四人抜きして一位を取った。
抱きついてくるクラスの奴を無視して、俺は声をかけてくれた人物を見る。
彼女は優しく微笑みこちらをみていた。
おれはその微笑みにやられた。
数日後、それが白石頼だとわかった。
それからの俺は走る時に彼女の顔が目に浮かぶようになり、部活でもタイムを縮めるなど調子がよくなった。
そして二年になると同じクラス、彼女が俺の席の前にいる。
後ろから彼女の様々な姿を知っていくうちに俺の想いは確かなものになった。
「白石さんはただ単に告られたからOKするような人には思えないけど」
「そうかな」
「彼女を信じろよ」
敏弥は俺の肩をポンと軽く叩くと、教室に戻るぞと立ち上がる。
俺も後を追って教室へ向かう。
頼はクラスの女子と楽しそうに談笑していた。
俺に気付くとあの優しい笑みをくれる。
頼、俺はその笑顔を信じていいんだよな。