旅立ち-3
冷泉は予想通り、空港で逮捕された。証拠隠滅を恐れた検察は保釈も認めなかった。迎えにいった百合子は「何かの間違いだから」とうろたえながら言う夫を冷めた眼で見送り、何が起きたのかわからず呆然とする娘を、山本が用意してくれたマンションに連れて行った。
娘に事情を説明し、婚約者のところへも挨拶に行き、当然のことながら破談となった。しかし、娘のことを心底愛していた二条家の御曹司は、母親の反対を押し切り、勘当されるという目にあっても娘との結婚を望んでくれ、グループとは全く別の仕事に就き、都内にアパートを借り、ふたりで生活をし始めた。その職場でメキメキと頭角を現し周りにも認められた。勘当したといってもその行いをつぶさに調査していた二条家は、影で支えていた娘もふくめて、三年後勘当を解き、財閥の跡取りとして、またその嫁としてふたりを正式に認めることになる。
冷泉はすべての罪状を否認し抵抗を続けたが、数々の証拠を突きつけられ白旗を揚げざるをえなかった。拘置所で拘留されている間、自責の念にもかられ、度々面会に訪れる百合子にもだんだん優しくなり、籍を抜くことで妻への負担を減らそうと獄中での離婚を決意した。その後長期間の懲役を余儀なくされることになる。
冷泉を追い込んだ背景には、もちろん安田財閥の暗躍があった。不動産業は得意としていなかった企業体だったが、やってみると思いのほか利益を上げることができ、冷泉グループは得意先を次々と安田財閥に獲られ、企業としての体力を失っていった。
成美は置屋を開放された後、しばらく残りたいと希望した。人気ナンバーワンだったこともあり、教育係としても歓迎され残った。もちろん山本の作戦で、置屋の親分を手なずけ、冷泉の肩をもたないようにするためだった。親分は置屋に多大な利益をもたらす成美を厚くもてなし、冷泉との関係は次第に疎遠となっていった。
山本は資金をふたりを置屋から出すことにほとんど使ってしまっていたが、冷泉グループの株を空売りすることに残ったすべての資金をつぎこみ、かなりの利益を得た。二条家との縁談が決まりそうな頃、今度は買いに転じ、また利益を出し、この逮捕劇の直前にはさらに空売りを仕掛け莫大な利益を得た。都内のマンションを丸ごと買い取り、成美に任せ、家賃収入を得ながら、軽井沢には広大な敷地に別荘を建てた。そこで余生を百合子と暮らすつもりである。