澄子-4
成美と真理子を置屋から連れ出すのに成功した山本は、成美には置屋に教育係として採用してもらい真理子には住む家と就職口を用意した。それは澄子の口利きで銀座のブティックだった。ブティックの経営者は澄子とは肝胆相照らす仲で信頼の置ける人物だった。
「ねぇ、あの娘はどう?」
一年たった頃、澄子は呼び出して聞いた。
「いい娘を紹介してくれたわ、よく気がつくし頭もいいわね」
「そう、それはよかったわ」
「男に慣れてなかったのかな、最初の頃はお客の同伴の殿方を見ると動揺していたようだけど今はまったく。凛としているんだけど、女の私から見てもなんともいえない色気もあるわね。体中から沸き立つほどの」
「そう」
「あれは男がほっておかないわ。あんな娘は長く勤めて欲しいから私が防波堤になるわ」
「ふふっ、それは巨大な防波堤になることでしょう」
「それにね、私はいつも新人に試すのだけど、自分が盗んでも気づかれないような状況をわざと作って現金を置いておくの」
「うん、うん」
「それにもまったく手をつけなかったわ。信用できるわね」
「そう、紹介してよかったわ。可愛がってやってね」
澄子は山本の人選に間違いがなかったことに安心した。
山本にそろそろ作戦を実行したいと申し出、手はずが整った日に自宅へ招いた。
「やあいらっしゃい。山本さんですね。家内がいつもお世話になって」
「はじめまして。こちらこそ相談したいとお願いしたらお招きいただきまして」
「こちらのキレイなお嬢さんは山本さんのご親戚と家内から」
「はい、はじめまして、黒田真理子と申します」
「まあまあ、中に入っていただいてそのあとゆっくりお話しては」
澄子が一郎に促した。
「おお、そうだな。どうぞどうぞ」
山本達は豪華なオードヴルが並べられた食卓の前に案内された。
「料理人の山本さんのお口に合うかわかりませんが家内が作ったものですからよろしかったら」
「いえいえ、私は料理人なんてもんじゃありません。美味しそうですね、遠慮なくいただきます」
明るく場を和ますことの得意な一郎は、普段無口な山本や緊張しておとなしい真理子を楽しませ、自分も朗らかに酔っていった。ホステス役を務めていた澄子は、一郎が手洗いに立った後ワイングラスに少量の睡眠薬を入れた。
「さあ、シュウちゃんたち、よろしくね」
「なあ、あんないいご主人なのに。ホントにいいのか?」
「奥さま、私もホントにそうなってしまっていいのかと・・・」
「ええ、安田家のためだわ。それに私は夫を心から愛しているわ。だからこそなの」
真剣かつ強い意志を感じた二人は作戦実行を決めた。