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白百合散る
【熟女/人妻 官能小説】

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終わりの始まり-1

初夏の日差しは多くの旅行者で行きかう羽田空港に優しく降り注ぎ、ローマに向かうJAL045便の窓の中にも届いていた。旧華族で子爵の家に生まれた冷泉信男とその娘咲子はその光の中で、今から始まる旅行に興奮しながらもひとつ空いた席を少し不安そうに眺めていた。
「お母さまのパスポートはあったかしら」
「かばんに入れ忘れただけだから部屋の中にあるよ」
「そうよね」
「明日の便には乗れるだろうから現地で待っていよう」
数分後、まばゆい光を反射させながら経由地のシャルルドゴール空港に向かって飛び立っていった。
咲子の母の百合子も旧華族の生まれで、冷泉家に嫁ぎ二十二年。二十歳の娘がいるとは思えないほど美しく気高い。確かに入れておいたパスポートがないことに空港で気づき、電話で執事の山本に確かめさせたがないようなので、あわてて自宅に戻り探しているところである。
 山本では探せないプライベートな場所を何度も探したがない。タクシー会社に問い合わせもしてみたが、該当の車に落し物はなかったとの報告がきただけだった。
「奥さま、問い合わせたところ再発行には一週間から十日ほどかかるようです」
「そう、それでは間に合わないわ。どうしましょう」
「どこかで落としたかもしれませんから警察にも届けを出されたほうが」
「そうね、そうするわ。車を呼んでちょうだい」
「かしこまりました」
 山本はタクシーを呼び、百合子が乗り込むのを見届けるともう一本別のところに電話をかけた。
 百合子は警察で届けを済ませると、少し鬱憤晴らしに買い物にでかけようと待たせた車にいつもの店に行くように告げた。高価な服や装飾品をひととおり見たおかげで多少気分も晴れやかになった百合子だが、パスポートのことが頭を離れず何も買うことなく店を出たときだった。
「お客さま、少しお待ちを」
「何かしら?」
「そのバッグの中の品物はお代金を頂いてないようですが」
「何のこと?」
「バッグの中を拝見させてください」
「もちろん、いいわ。何もなかったらタダではおきませんよ」
「わかっております、ほら、この化粧品はお代金をいただいていませんね」
「ちょっ、ちょっと待って。私はこんなもの入れた覚えはありません」
「お客さま、ここではなんですのでこちらへお越しいただけますか」
別室に連れて行かれた百合子は知らなかったと言い張るが、現物がバッグから出てきているので通らない。しかし、幸い担当者も、「私もお顔を存じ上げておりますし初犯のようだから警察には届けませんが、お家の方には連絡させていただきますよ」と言うので、一刻も早くこの場を去りたい百合子は、主人たちは旅行中だから何とか露見せずに済ますことができると判断し、罪を認めた。家にいるのは信頼し、こんなときに勘を働かせ丸く収めてくれる山本だったからだ。山本は百合子の期待通りに主人を装い、「申し訳ない、二度とさせませんから」とその場を収め無事百合子を家に連れ帰った。
「何が二度とさせませんから、よ、あそこまで言わなくてもよかったんじゃない?気分悪いわ」
「でも奥さま、ああまで言わないと返してくれず、旦那さまにも知れてしまうと思ったものですから」
「それにしても言いすぎよ、あんたの亭主面にも腹が立ったわ、今日は顔を見たくないから帰ってちょうだい」
「・・・・・」
「何をしているの?早く私の前から消えてって言っているでしょ」
「奥さま、さっきから聞いてりゃ言いたい放題ですね、万引き女」
「なっ、なんてことを言うの、取り消しなさい、何なのその口の利き方は」
「ふふふっ、本当のことでしょう、実際とっつかまってたんだから」
「ちがうわっ、あれは何かの間違いよ。私はやってないわ」
「まぁいい、旦那さまが帰ってきたらちゃんと報告しておきますよ」
「お願い、それだけはやめて」
「しかしねえ」
「山本さん、お願い、主人には言わないで」
百合子の計算では主人に万引きのことが伝わっても、何かの間違いと信じてくれる自信があった。しかし、下手にでておいたほうが得策と判断したのだった。
「そういうわけにはいきませんな。この家であったことを報告するのは、執事である私の役目ですから」
「お願い、お金なら少しは用立ててあげるから」
「ほう、交換条件ときましたか。しかし、私はお金では動きませんよ」
「じゃあ、どうしたら黙っていてくれるの?」
「そうですねえ」
百合子の体を上下に舐めまわすように見てニヤっと笑った。
「私は奥さまのことがずっと好きだったんですよ。」
 左手を百合子の腰に回そうとしたその時、ピシャッ、と百合子の平手打ちが山本の頬をとらえた。
「いいかげんにして!私を誰だと思っているの?私に触れていいのは主人だけよ」
「イテテ、そのご主人にバレてもいいって言うんですね?」
「いいわ、主人は分かってくれるから。そしてあんたは今日限りクビよ」
「そうですか、じゃあしょうがない。無理やり犯すのは趣味じゃないんでね」
「あんたに身を任せるくらいなら死んだほうがましだわ、荷物をまとめてさっさと出ておいき」
山本はドアに向かいながらつぶやいた。
「二条家の奥さまに電話しなくちゃな」
「ちょっと待ちなさい、何であんたが二条さんに電話するのよ」
冷泉家と二条家には縁談話があった。
「二条家の奥さまには、冷泉家に関することは何でも教えてくれと頼まれているのでね」
「どうゆうこと?」
「可愛いご子息の嫁になるあんたの娘や、その出身家に興味があるんだろうよ。この話が持ち上がってすぐ、奥さま直々に頼まれたんだよ」
「何を言う気なのよ」
「そりゃあ、嫁になるかもしれない娘の母が窃盗をしていたってね、クククッ」
「せ、窃盗って、私はしてないし、そんな話は信じないはずよ」
「そう思うならそれでいいさ、それじゃ、奥さま、お世話になりました、クククッ」



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