心の中に残る人。-9
「こんだけ一人で満たせるものがいっぱいあるのに、何で我慢できなかったかなー。」
オナグッズを興味深そうに見続けながら言った。
「そうなんスけどねぇ…」
溜息をつく杉山。
「マギーが怒ったのは、それだけが理由じゃないんするよ…」
「えっ?」
スマホを弄る指が止まる杏奈。
「杉山君にとって1番好きな人は、心の中にいるんでしょ?って言われて…。」
「えっ??どう言う事??」
「俺、ホントにマギーが大好きでした。嘘じゃありません。結婚したいって思ってたぐらいスから。でも、俺の中にどうしても忘れられない人がいて、そんな俺の気持ちにマギーは前から気付いていたんですね。それに気付いていながら1番愛してるって言ってた自分は最低っス。それが見抜かれてたって分かった時、マギーを引き止める自信がなくなっちゃって…。」
杏奈は目をパチクリさせていた。
「ちょっと待って…?何、杉山君は他に好きな人がいたって事なの??」
「はい…」
「嘘でしょ!?誰よそれ??」
「言えません。ずっと胸の中にしまっておくつもりだったんで…。マギーと付き合えばきっと忘れられるって思ってました。実際マギーにはまって、最高の彼女だと思ってました。でもそんな状態になっても、その人を忘れることができなかったんス。最低なことに、マギーとヤッてる時に、その人とヤッてる想像をした事もあるぐらい、消えるどころか日に日にその存在が大きくなってくばかりで…。悟られないよう気を付けてたはずだったんスけど、マギーには見抜かれてたんスね。それを考えると、マギーにホント申し訳ないって。」
「ハーっ、最悪だわアンタ。マギーが可哀想。あんなに一生懸命愛して尽くしてくれたのに。そんなマギーよりも好きって、その人はそんなに素敵な女なの?」
「はい。眩しいぐらい素敵な人なんス。」
またグィッとビールを飲んだ。良く見れば杉山はますます辛そうに見えた。
(っと、いけないいけない、責めるんじゃなくて励ますんだったわ…。)
ついつい責めてしまう自分を抑え、可愛い後輩を励まそうと思った。
「やっぱ新しい恋を探しなよ!てかさー、その人にアタックしてみたら??そんなに好きなら、さー♪」
「…ですよね!いつまでもクヨクヨしててもしょうがないっスもんね!よーし、今日は飲んで飲みまくってやるっス!!」
「そーそー!元気出して♪今日は朝まで付き合うわよっ♪」
二人とも酔っ払い、グラスを5、6回カチンカチンと合わせて、乾杯!!と言って浴びる程にビールを飲んだのであった。