妻の遺した贈り物-1
1.
「若い男性と銀座を歩くなんて、本当に久しぶり。浮き浮きしちゃうわ」
「むさ苦しい男やもめで、済みませんねえ」
「ねえ昇さん、貴男結構なイケメンなんだから、一寸気を付けたら女なんてより取り見取りよ」
「いやあ、再婚なんて考えていません」
「ダメよ、駄目っ、せっかくの男前がもったいないわ、今日はわたしが変身させてあげるから、頑張るのよ」
「はあ」
妻を3年前に交通事故で無くしてから、義母の清美は何かにつけて昇の家に押しかけて掃除洗濯など世話を焼いてくれる。身なりに全く気を使わない昇を、非番の今日、連れ出した。取り敢えずはスーツとシャツ、ネクタイと店を回りながら、独りではしゃいでいる。
義父は大手商社の部長で近く役員になれるそうだ。義妹の明子は、大学を出てIT系のベンチャー企業で張り切っている。ボーイフレンドはいないらしい。仕事が面白いので、男に気を遣うのは面倒だと言う。が、本心は密かに昇に想いを寄せている。母の清美が、昇の勤務明けに訪れて掃除などしているのが気になるが、文句を言う筋合いではないので我慢をしている。
明子は時折、勤務帰りに昇の好きそうな食材を買い込んで、昇の帰宅を待ちながら夕食の支度をするのを楽しみにしている。勤務の不規則な昇とはスマホで連絡を取り合った。当の昇は、そんな母娘の思惑など気にもせず、不規則な生活を言い訳にして、気楽な生活を楽しんでいる。