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Limelight
【スポーツ その他小説】

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Moonlight-3

結局、両チーム無得点のまま、試合は最終回へ。熱戦は、意外な形でその幕を引くことになった。

9回の裏。狭山商業の攻撃。先頭のバッターにライトの前に落とされる。そのランナーを送りバントで進めた狭山商は、中軸、3番がバッターボックスに入る。完全に振り遅れた打球は死に、1・2塁間に転がった。二塁手がそれを処理し、ファーストミットに収めたときには、既にランナーは3塁に到達していた。

2アウト3塁。

マウンド上の左腕は天を仰ぎ、左の掌を胸骨の真ん中付近に重ねた。視線を打者に戻した彼には心なしか、双眸に違う光を燈った気がした。

ランナーを完全に無視し、弓なりに背筋を反らし、大きく振りかぶる。高々と上げられた右足をまっすぐに踏み出し、両腕を広げる。その姿は、大型の猛禽類が両の翼を広げたようにも見えた。鞭のようにしなった左腕から、白い弾丸が射出される。弾丸は、白い軌跡を描き、キャッチャーミットに突き刺さる。パァン、という鋭い音が球場全体に響き渡った。

そのストレートを2球続けると、マウンド上の2年生は完全に打席に立つ4番打者を飲み込んでいた。9回に来てここまでのスタミナを誇る彼に、打線の中核を担う3年生は完全に萎縮していた。

運命を分けたのは、続く3球目。

長い指先から開放された白球は、幾分落ちたスピードで打者の内角低目へと突き進んだ。

流石に、弱小校とはいえ、4番を張っている打者がそれを逃すはずは無かった。銀色の金属バットが、ついにその軌道を捉えた。そう、思われた。



バットが、空を切る。



しかし、ボールがミットに収まることは無かった。



打者の手元で急激に変化したボールは、キャッチャーのミットを掠め、バックネットへと転がった。キャッチャーがあわててマスクを外し、それを追う。しかし、もう後の祭りだということに、彼は気付いただろうか? 彼がボールを握り締めたときには、3塁ランナーは本塁に、バッターランナーは1塁にそれぞれ到達していた。

サヨナラ振り逃げ。

あまりにも呆気無い幕切れだった。私のいた一塁側スタンドにも、どこか白けた雰囲気が漂っていた。

ピッチャーの11番は、本塁上で天を仰いでいた。ぼんやりと、自らの敗戦を噛み締めるかのように。

サイレンが鳴り響く。

両校の選手たちが握手を交わす中、一人だけ礼の頭を下げた姿勢のままの選手がいた。言うまでもないが、背番号11の彼だ。

やがて彼もほかの選手たちに支えられ、ダグアウトへと引き返していった。その表情は目深にかぶった帽子のせいで窺い知ることは出来なかった。

真夏の太陽の下、灼熱色の日差しの下で躍動した彼の姿は、今でも鮮明に思い出すことが出来る。センター後方の電光掲示板に点灯した、『鳴瀬』という名前を、私は一生忘れまい、と誓ったある夏の日だった。


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