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Limelight
【スポーツ その他小説】

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Moonlight-2

──3年前。

私は、とある地方球場のスタンドに立っていた。狭山商業高校硬式野球部が17年ぶりに3回戦進出を果たしたということで、全校生徒がその応援に駆り出されたのだ。その程度でいちいち炎天下の野球場につれてこられる人間の身にもなってほしいものだと、みな口々に呟いていた。もちろん。私も全く以って同感だった。

水色のタオルを頭からかぶり、ぼんやりとグラウンドを見渡してみる。前の試合をスタンドで応援していた控えの選手たちが黒い土の上をトンボと呼ばれる(私は知らないが、どうやらそういう名前らしい)道具を使って入念に整備をしている。一方で、球場の職員であろうおじさんがマウンドの後ろにある水道からホースをつなぎ、内野全体に水を撒いている。外野に目を移してみると、両校の先発であろうピッチャーが、長い距離でキャッチボールをしていた。

そうやって見てみると、きれいだな、という印象がまず浮かんだ。どうしてかはわからないけど。

実はそのときにはもう、私のお腹の中には望まれない命が芽生えているのがわかっていた。ちょうど、その試合の3・4日前だったはずだ。生理が送れ、何となく気分が悪い日が続くようになっていた私は、発芽しつつある心配の種を、根こそぎ引き抜く意味で産婦人科に向かった。人目を気にしながら病院に入る私の姿は、自分から見てもなかなか滑稽だったと思う。

結果は、大いに私の期待を裏切ってくれた。妊娠2ヶ月。紛れも無い事実が、むき出しの刃物のように私に突きつけられた。それなのに、その数日後には他人の青春の1ページを見て和んでいる自分がいうことに、少し苛立った。



サイレンが、鳴り響く。



全力でホームベースまでかけていった高校球児はやはり青春真っ只中だな、と高校1年生の私は思った。



「鹿陽館高校」

その名前を聞いてもぴんとこなかったは私だけではなかった。どうやらまだ歴史が4年や5年といった新設校らしく、3回戦進出は野球部史上初、ということらしかった。投手を中心とした守りの野球を身上とする野球が得意‥‥らしい。

その、投手だ。

マウンドの上の背番号11は、打者を内野ゴロに打ち取るたびにその内野手に白い歯を向けて笑いかけ、エラーをした選手には悪戯っぽく笑いかけてその尻を叩いたりと、そういったひとつひとつの仕種が、私には印象的だった。

躍動する、といった表現がここではうまく当てはまると思う。ボールを放した後、フィニッシュで跳ねるような動きをする、しなやかでありながらもダイナミックなフォーム。それに、うまく表現できないが、とてもいい雰囲気を持っているのである。グラウンドで一番高いところにいるのが、さも当然のように見えるのだ。スポーツには疎い私でも感じ取れる『何か』を、彼からは感じ取ることが出来た。


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