バニラプリン‐主編‐-5
次の…次の言葉が出て来ない。
全く思い浮かばない。
「俺は君が誰なのかも知らないし、君のような人は好きじゃない。返答はもはや必要無しだろ?」
「……」
その日、自分がフラれた理由を考えながら歩いていたあたしは最終的にこう判断した。
自分はまだ黒河クンに認めてもらうだけのレベルに達していなかったのだと。
もっともっとキレイになればきっと彼に認めてもらえると。
すぐさま商店街へと向かった。
もはや陽が墜ち、空はすっかり闇へと化していた。
この時間ともなると、昼間は賑やかで活気の溢れていた歩行者天国は静けさを纏う。
ほとんどの店がシャッターを下ろし始めたその一直線状の道のりを行くと、あの露店が視界に入ってきた。
そう。あの時、バニラプリンと呼ばれていたものを売っていた露店。
ネットで取引情報を仕入れるまでは、この見慣れた商店街にまさかこのような露店があったなんて気付きもしなかった。
あの時の老婆は今日は何故か居なかった。
代わりに背の高い華奢な男性がそこに立っていた。
あの時の老婆と同じ位置にいるからやはり店員なのだろう。
相変わらず、バニラプリンなる液体の入った瓶が並べられている。
そう言えば不思議なものだ。露店だから目立つはずなのに、今もあの時もあたし以外誰一人として近寄っていない。
普通ならその状況に気付いた時点で多少の恐怖を覚えるものだが、今のあたしは全く別の感情に支配され、それどころではなかった。
あたしはその店員らしき男に対し、半ば唐突に話し掛ける。
「バニラプリンを30本ください」
同時に一万円札を6枚差し出した。
するとその男は金額を確かめると何も言わずに30本のバニラプリンを箱に詰めて渡してきた。
あたしはと言うと、どことなく無機質なその男を気に留める事もなく、重たい箱とともにその場を去った。
街灯と信号だけが辺りを照らす帰り道。
信号の色が変わった事よりも、車の流れが止まった事で渡れると判断した。
その時、ふと横断歩道の隅で一匹の猫が死んでいる事に気付いた。