バニラプリン‐主編‐-4
ずっと彼──黒河瞬の事が好きでたまらなかったのに。
何故か本命である彼だけは振り向いてくれなかった。
─紅い夕陽が窓から差し込んでいるあたしの部屋。
とうとう空っぽになってしまった10本のガラス瓶。
烏の鳴き声がいつになく耳障りだ。
手鏡を覗き込むと、整ってはいるが僅かにひきつったあたしの顔。
その晩は食事をせずに寝た。
あたしの珍しい態度に母は心配したのだろうか、部屋を何回もノックする音が耳に響いた。
だが、それもただのノイズでしかなかった。
(なんで余計なものばかり寄って来るんだろ…。あたしが欲しいのは黒河クンだけなのに)
その夜、あたしはとても嫌な夢を見た。
そこは何処かの遊園地にある観覧車の狭い空間。
あたしの目の前に彼は居た。
手を伸ばせば届く距離。
あたしに向かって優しく微笑む彼。
その笑顔に押され、今こそ想いを告げようとあたしが彼を見つめ直した時、何故か彼の姿が瞬時に消えた。
気が付けばあたしは一人観覧車の中。
混乱してキョロキョロと辺りを見渡す。
すると回転木馬の側に目が止まる。
彼が歩いていた。知らぬ女の人と一緒に。
彼の表情が見えてくる。どこか照れているような、けれどとても嬉しそうな顔だった。
そして彼はその女性とともに去っていった。
そこであたしは目が覚めた。
じっとり寝汗をかいていて苦しい。
(夢で良かった…)
だが、もうこんな思いはしたくなかった。
いつまでも不安を抱えているのは耐えられない。
あたしは意を決して学校へ向かった。
そして彼がいるであろう教室へ。
案の定、彼は既に登校して来ていた。
鼓動が高まる。
「あの…黒河クンですよね?」
「そうですけど」
黒河を間近で見るとやはり気が退けそうだ。
彼はとても日本人離れした顔付きだ。
「あたしと付き合って下さい」
「…無理だね」
まさしくガラスの砕け散る音が内側に響く。
黒河瞬の双眼の瞳はあたしを真っ直ぐ見据えていた。
冷たいほどに。