僕と社長と不思議な彼女-1
風が吹き抜けるビルの屋上
そこに立つ少年の足下には、小さな靴と綺麗な文字で綴られた遺書が置いてある
彼の名前は宮島 葉月[ミヤシマ ハヅキ]
17歳の高校二年生
顔はそれほど悪くない
むしろ、暗い雰囲気さえ取り除けば綺麗な方だ
しかしこの綺麗な顔も、今となっては「からかい」のネタでしかない
彼はイジメに遭っている
いや、「遭っていた」の方が正しいのかもしれない
今から彼の灯は彼自身の手で消されるのだから――
「父さん、母さん、もうすぐそっちに逝きます……」
もう逝こう
安全対策の柵を越え、体を前に倒す
葉月の体は地上に向かって落ちる
落ちる
落ちる
落ちる……
落ちる?
何故か地上との差は縮まらない
おまけに息苦しい
「ダメだよぉ死んだらぁ」
不意に声が聞こえた
妙なしゃべり方だ
葉月が恐る恐る振返ると、なんとも言えないアホっ面がシャツの襟(もちろん葉月の)を掴んでいた
「死んだらぁ悲しいよぉ」
アンタ誰?
混乱する葉月の意識は酸素切れのためそこで切れた
お洒落なインテリア
お洒落な家具
そして少しレトロな香りを漂わせる雰囲気
そう、ここは間違いなく『お洒落』な喫茶店だ
ただ、葉月は何故自分がここに居るかを理解しかねた
自殺しようとして、知らない人に止められ、そして腕を(やや強めに)引かれた
そこから展開が急すぎて、よく覚えていない
「確か……車に乗せられて……目隠しされて……あとは?」
冷静に、順を追って自分の置かれた状況を把握しようとする
「あとは…………あとは…………?」
やはり解らなかった
「あぁ、すまない待たせたな」
背中の方から声が聞こえた
いきなりなので肩がビクッと震えた