光の風 〈聖地篇〉-7
やがて風が吹く、まるで呼び寄せられるようにカルサは歩きだした。千羅とジンロは目を合わせ、不思議そうに後に続く。カルサの傍らにいるラファルは常にカルサに付いていった。
奥へ、奥へ。果てしなく広い庭はいつしか森になっていた。
「ここは国自体が宮殿みたいなもんですね。」
「ああ。ここにはオレたち御剣関係者しかいない。」
ジンロの答えに千羅は納得した。《御剣の総本山》というだけはある。そんな二人の会話も知らぬ顔でカルサは前を歩き続けた。
「あいつ、まさかあそこへ行くつもりか?」
ジンロは行き先に一つの可能性をあげて呟いた。もちろん千羅がその声を聞き逃す訳もない。
「心当たりでも?」
「ああ、しかし…。」
ジンロは言葉を濁した。行き先に見当が付いても理由が分からない。
先行くカルサを見た。彼は前だけを見て進んでいく。しばらく歩いた先でカルサは立ち止まった。
そこはまさにジンロが予想した場所、森の中なのにそこだけは木がなく広がっていた。
いくつもの石版が大地に埋められ、広々とした空間だった。
その場所が何か一目で分かる。
「墓地…慰霊碑ですか?」
千羅の問いかけにジンロは頷いた。カルサは止めていた足を進め、石版の文字を確認しながら歩いていく。
何かを探していることは明白だった。二人はその場から動かず、カルサの行く末を見守る。
「探しているものに心当たりは?」
「ここは太古の神官たちの墓場なんだ…心当たりはありすぎる。」
この墓場の意味を知り、千羅は驚いた。太古の神官たちの墓場、それはカルサはもちろん千羅にも大きな意味をなすものだった。
やがてカルサの足は止まった。
二人はカルサに注目する。下を見て立ち尽くしていたかと思えば、ゆっくりとしゃがんだ。
手を石版にのばし、なでる。その手はかすかに震えていた。
今にも泣きそうな表情、ラファルは座ったままカルサの傍にいた。体がさらに石版に近づくように縮まる。
千羅はジンロを残し、走ってカルサに駆け寄った。ジンロもゆっくりと歩き始める。
「カルサ、どうした?!」
しゃがみ俯いたカルサを覗き込むように千羅は声をかけた。
カルサの瞳は石版の文字から離れない。深く、深く、その名を目に胸に魂に刻んだ。
千羅も石版の主を確認し心の中で呟く。なんとなく声に出してはいけない気がした。その名に覚えがある。