光の風 〈聖地篇〉-20
誰より千羅が願ったことが今叶った。
昼間過ごした広いバルコニーに彼は居た。手摺りに体重をかけ、目の前に広がる景色にも目をくれず泣いていた。
片手で両目を覆い、声を殺して千羅は泣いていた。
なぜなら、たった今カルサの願いが叶ったのだから。
共に生きたいと願う人が現れ、彼女もまたそう願った。二人は共に生きていく事を選び誓ったのだ。
それが何よりも千羅が望んだこと。少しでもいい、わずかでもいいから、カルサの幸せを。生きる希望を切に願っていた。
「千羅。」
背後からかかる声。千羅には正体が分かっていた。返事をすることもなく涙を流す。
「泣きすぎだ、お前。」
声の主、ジンロは千羅の肩を叩き横に並んだ。ジンロには千羅の気持ちがよく分かる。
それほどまでに彼を慕い、守ろうと必死だったのだ。今まで悲しい運命の為、生きようとしないカルサが生きていく事を考え始めたのだ。
共に生きていく事を望んだ女性がいるのだ。こんなに嬉しいことはない。ただ今は嬉しいよりも涙がこぼれて止まらなかった。
そんな千羅が愛しくてたまらない。ジンロは千羅の頭をぽんぽんと叩いた。
「良かったな…カルサ。あの二人なら大丈夫だ。」
千羅は頷く。まるで自分の事のように、それ以上に感動していた。溢れる涙が止まらなかった。
「お前みたいな奴がカルサの傍に居てくれて良かった…ありがとうな、千羅。」
千羅は何の反応も示さない。ただカルサを想って泣いていた。
ジンロは微笑み、空を仰ぐ。
「みろ。運命は変わり始めている…彼女が言うように想いには力があるんだ。」
より一層強まった想い。このままでは終わらせない、カルサが死なずにすむ方法を見つけてみせる。
「何が何でもあいつを守るぞ。」
ジンロの声には強い気持ちと力があった。それは千羅も同じ事。
「はい。」
それぞれの想いが強まる中、夜は更け、やすらぎの眠りを与えていった。
一日の始まりを告げる光は、まるで新しい人生を照らすかのようにカルサとリュナに降り注いだ。
カルサの腕の中にいるリュナの瞳には、安らかに眠る彼の姿。何よりも至福の時だった。
そっと頬に触れてみる。規則正しい寝息をたてたまま、カルサは動かなかった。リュナは愛しさから笑顔になる。
もう一度触れてみようとした、その瞬間動きが止まる。
ふと気配を感じた。リュナはそっとカルサの腕の中から抜け出し、ベッドから降りる。