光の風 〈聖地篇〉-18
リュナの瞳から涙があふれだす。まるで泣けないカルサの代わりに泣いてあげてるように。
「誰がっ!カルサにそんな使命を与えたの!」
小さな声で悲痛の叫びを放った。小さくて大きな叫びは波紋をうみ、部屋に、何よりカルサの心に響いた。
「リュナ。」
「誰が貴方の命を…人の命をなんだと思ってるの?」
リュナの声が怒りと憎しみに染まる。しかし、それも一瞬の事で愛しさが込み上げてきた。
手を伸ばしカルサを抱きしめる。最初は軽く、そしてしっかりと全身でカルサを抱きしめた。
「どうして私は力になれないの…。」
自分の無力さが情けない。悔しさと切なさの涙がリュナの頬を伝う。
こんなにも自分を想ってくれている人がいる。まさに今自分の腕の中にいる。
抱きしめたいけど抱きしめられない。カルサの腕は宙に浮いたままだった。
言いたい言葉がある。しかし、言えない言葉がある。
「オレには未来がない。だから妃もいらないし、自分の子孫なんかもいらない。」
カルサの声が響いた。その考えは今も昔も変わらない。この先も変わることはない。
そう思っていた。
「だけど感情のまま、欲望のまま、きみを抱いてしまった。ぬくもりに触れたかった。」
カルサは強く拳を握る。力強すぎる手は今にも血が出そうだった。
「リュナを抱く度に想いが強くなっていくのが分かる。生きたいと、未来が欲しいと。」
決して叶うはずがないと分かっていた。それでも淡く抱いてしまう想い。
どうか彼女との未来を。
「オレの傍にいては危険が生じる。リュナには安全な所で笑っていてほしい。」
全てはリュナを守るため、全てはカルサの安心の為だった。何が起こるか分からない使命、血の匂い以外に何があるだろう。
最後に染まるのは自分の血だと分かっている。
「それでも…。」
自分の命はつき、彼女の命も果てるかもしれない。もっとひどい惨事になるかもしれない。
それでも、今感じるぬくもりへの想いは止められなかった。
「オレは…リュナを離したくない。」
宙に浮いた手でしっかりとリュナを抱きしめた。あまりの力強さにリュナの体が動く。
「我儘だと分かっている。でも傍に居てほしいんだ…オレの最後を…。」
いつかは淡く消え果てる存在でも生きている実感が欲しかった。リュナの中で震えるカルサがいる。