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蜜戯
【SM 官能小説】

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蜜戯-3

その日、わたしは古い友人たちに昼食会に誘われていた。わたしは出席を迷っていたが、彼の勧めもあって久しぶりに出かけることにした。
履いていく靴に迷っていたとき、彼はわたしの靴箱のどこから見つけてきたのか、ローヒールの靴を差し出した。上品な黒色のパンプスは、まるで新品ようにいつのまにか磨かれていた。わたしはそんな靴をいつ頃、履いていたのか思い出せない。そもそもその靴を自分が持っていたことさえ忘れていた。
「とても素敵な靴ですね、奥様にとても似合います。たぶん、杖をついても奥様の脚で歩くのには大丈夫だと思います」彼はそう言うと、わたしを椅子に座らせ、ストッキングに包まれたふくらはぎから足首を撫でるように手を這わせた。
これまでわたしの身体を支えてくれた彼の手が、介助のための支える手ではなく、何かわたしの肉体を求めるような手に変わっていることを敏感に感じたわたしは、足先に絡む彼の指に心をゆるませた。
「奥様と呼ぶのは、やめて。ミヅヨって呼んでいただけないかしら」わたしは、自分の記憶から失せた、ひとりの女としてまるで恋人に甘えるような声で言った。彼に脚を触れられたことでわたしは彼をとても身近に感じ、彼の声でわたしの名前を呼んで欲しかったのだ。
彼はとても照れくさそうな顔をして笑った。
「ミヅヨさんの脚ってとてもきれいですね。とても八十歳近くの女性の脚とは思えないくらいです」そう言いながら彼の掌が足先を包み込むと、なぜか息がつまるほどわたしは胸が苦しくなった。
「こんなお婆ちゃんの脚を褒められたのは初めてだわ」
脚を触れられているだけなのに身動きできなくなる彼の指。とても柔らかく、しなやかな指だった。いつも触れられている指なのに、彼の体温と優しさと、あたたかさを含んでいた。
彼はわたしのかかとに左手を添え、右手で持った靴を爪先の奥まですべらせた。足先はとても素直に靴に馴染んだ。まるでずっとわたしを待っていたような靴は、脚全体に愛おしさと安心を与えた。おそらくそれは彼に履かされた靴だったからかもしれない。
彼はわたしの靴の表面をなぞり、手はふたたび足首を這い上がり、ふくらはぎを優しく撫でながら空気にふわりと消え入るようにわたしの脚から離れた。
「こんな古い靴が新品みたいに、まだ履けたのね」
「ええ、ぴったりじゃないですか、ミヅヨさんの脚ってとても若くて、昔のままですね」
不思議な感覚だった。彼の声と微かな息づかいが靴にのり移ったようにわたしを包み込んでいた。
「立って、歩いてみてください」彼は跪いたままそう言った。
わたしは立ち上がり、フローリングの床の上を小回りに歩いた。膝の痛みもなく脚が動き、背筋が伸び、腰がくびれ、久しぶりに靴底から鳴るヒールの音は懐かしい響きをもっていた。
「とても素敵ですよ」
床に跪いた彼はわたしを見上げるように視線を注ぎながら言った。スカートの裾が微かに揺れ、靴音が心地よく軽やかな音楽のように旋律を刻んだ。靴はどんな圧迫も与えず、わたしの脚としなやかに一体になっていた。それなのに彼の前で歩いていると、わたしは彼の虜になったように自由を奪われる心地よさを感じていた。
古い友人たちとの食事会は、遠い思い出に触れながら和やかな時間が過ぎていったが、それよりもわたしは、食事のあと、彼が迎えに来ることがとても待ち遠しかった。それはまるで恋人を待つような愛おしさだった。



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