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蜜戯
【SM 官能小説】

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蜜戯-2

彼が初めて介護のためにわたしの家を訪れた日、わたしは彼に、日課の散歩につき合ってもらった。互いに寄り添って散歩をすることで、きっと彼の指はわたしを支えてくれると思っていた。何よりもわたしは彼の指を欲しがっていた。
もっとぼくにもたれかかってくださいね。そう言った彼の肩がすぐそばにあった。
彼の体温を微かに感じた。身を固くしたせいか足元がおぼつかなかった。彼の腕がわたしの腰をふわりと抱き支えた。彼の指を初めて肌に感じたとき、わたしは自分の身体の中にはっきりとした女の疼きに気がついた。甘く心地よい、懐かしい記憶をくすぐるような疼きだった。それは彼の指先がわたしの身体に吸いついていることの安心感だった。
玄関の石段を下りるときも、ベンチから立ち上がるときも、よろけそうになったときも、彼の指がわたしの身体をしっかりと支えてくれた。指は、わたしの肩や腰に触れ、ときに他愛もなく戯れるように胸に触れるときもあった。肌の隅々をまさぐるような指をわたしは勝手に自分の肉体を求める指だと思い込み始めていた。
彼の指で触れられているとき、わたしは自分のまわりの光や音をはっきりと感じることができた。夏の終わりの太陽の光、流れていく小川のせせらぎ、風が樹木の葉をくすぐる音、そういうものがすべて自分の身体を生き返らせるように滲み入ってきた。

「とても素敵なお家ですね」
背筋をすっと伸ばした彼は家の庭を見まわしながら言った。
「主人が亡くなってから、ひとりで住むには広すぎる家なのよ」と言いながら、わたしは彼の身体の線に視線を這わせた。仕事着なのか、いつも彼は清潔なポロシャツとチノパンを姿だったが、きれいに洗濯された衣服は、彼の香しい肉体を滲み出しているような気がした。
これまで感じてきたひとりだけの家の静けさが、彼がいることによって濃さを増し、わたしの心を淫らにゆるませた。異性を意識させる空気がわたしの心を撫で、微かな恥ずかしさを感じながら衣服から覗いた下着をとっさに隠し、逆に恥ずかしげもなく、大胆に彼の視線を素肌に迎え入れようとしている自分がいた。

彼は、家の中の家事をひととおりやってくれた。掃除、洗濯、買いもの、庭の手入れ、それに彼は料理も得意だった。わたしは膝を悪くしてから台所に立ちあがることがいつのまにか億劫になっていたが、彼はときどき台所に立ってくれた。簡単なものしか作れませんからと言いながら、年寄りが食べられそうなものをとても美味しく作ってくれた。
彼は午前中から来てくれるときもあれば、午後になるときもあった。午前中に来たときは、必ず散歩につき合ってもらった。だから彼が来るのが午後になると聞いたときは、ふたりで散歩ができないことにがっかりした。なぜなら彼の指がわたしの身体に触れる、ふたりの時間を十分にもつことができなかったからだった。

昼下がり、ひととおり彼が家事を終え、ふたりきりになったとき、彼の指がわたしだけのものであるということに、わたしはまだ慣れていなかった。戸惑いながらも、彼の指をたまらなく欲しいと願う瞬間が発作のようにわたしの胸の鼓動を高めた。
帰りの支度をする彼を目の前にしたわたしは、彼の美しい指だけを見つめていた。そのうちわたしは、指から想像される彼の肉体のすべてを感じようとしている自分に気がついていた。美しく均整のとれた、まるでモーツアルトの曲にどれひとつ不要な音符がないのと同じように、寸分の無駄もない、緊張と温かみのある、そして深く瑞々しい香りを匂わせる肉体の隅々まで脳裏に描いた。
やがてわたしは、彼の指がわたしを介助するためのものから、わたしを淫らに掻きたてるものであることを独りよがりに欲し始めていた。そう思わせるほど彼の指は忘れ去ったわたしの中の欲情を遠い過去から甦らせていたのかもしれない。


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