アクエリアスの女 変革の章-4
「トモっ」
「いいって言ったじゃん」
強い意志と哀愁を感じさせる懇願は僕の逃走を諦めさせた。力を抜いた僕にほっとしたトモは萎えてしまった僕のペニスにもローションを塗りしごき始めた。
「う、うぅっ」
「優しくします」
肉棒をゆるゆるしごきながら繊細な指先がアナルへ忍び寄ってくる。円を描くように優しくほぐそうとするが僕の精神が頑なで侵入を許せない。女性が初めて男と寝るときはこのような恐怖と戦っているのだろうか。これまで抱いてきた女性たちへ罪悪感が沸き、自分の男としての傲慢さに反省した。
「あっ、ぐっ」
ハッとするとトモに組み敷かれ足を大きく開かれ、今まさに挿入されるところだった。トモは額に汗をかき眉間にしわを寄せ唇を噛んでいる。真摯な姿は僕に感銘を受けさせ拒むことをやめさせた。そして文字通り身体を開いた。
「うっ、っ、くぅ……」
サイズが成人男性並みではないと言え内圧がすさまじい。ローションと慎重な挿入で痛みは感じないが違和感と異物感、そして征服される敗北感を覚えた。
「あっ、ひ、緋月さん。きついですね。痛くないですか?」
「む、んん、だ、大丈夫」
僕が労わられる立場になることなど夢にも思わなかった。全て挿入しつくしトモは僕の肉棒を再びしごき始める。
「うっ、うっ、くっ」
ペニスへの刺激が快感を促す。それと同時に不思議な感覚が身体の中を突き抜けた。
「んんんっ」
「ここ、らへん?たぶん、前立腺だと思うんだ。んんっ」
トモの細い腰がゆっくりグラインドし僕の内部をかき混ぜる。ペニスを繊細に上下をする手はほっそりした女の手なのに手付きは自慰になれた男のものだ。怪しい倒錯と味わったことのない官能の波が押し寄せる。
「あっ、あっ、ふっ、ん。緋月さん、ど、う?」
「も、もうだめだ。イ、イキそうだ」
「うっ、ふっ、ぼ、僕、も」
しごく手が早くなりトモのピストン運動も小刻みに速度を増す。
「あああっ、ぐうううっ、う、くっ、ふうっ」
「んんん、あっん、くっ、んふっ」
同時に射精する。自分の内側に初めて流される熱を帯びた精液にまるで支配されたような気分になるのはなぜだろうか。
「緋月さん、キス、していい?」
「ん」
薄く柔らかい唇が重ねられる。ただそれだけで今までの征服された被虐的な気分から一変して思いやりと慈悲を感じた。
「いたた」
「ごめんなさい」
僕は腰を抑えながらコーヒーを淹れているとトモは申し訳なさそうに頭を下げた。
「いや。いいんだ」
複雑な気分がぬぐえないがトモを女だと思い込み『征服したい』という言葉に高をくくっていた僕の傲慢さに非がある。
「僕と若菜のことは気にしなくていいよ。若菜の僕への想いも気にしなくていい」
「ん」
「今はみずがめ座の時代。まさに君の時代だよ」
「僕の……」
そう今はみずがめ座の時代に突入したと言われている。古い形式は失われ、新しい価値観が生まれるだろう。モノよりも情報に価値が置かれ始めている。それ故、時代に取り残されたり孤独に陥る人も多いことだろう。
「若菜を支えてやってくれ。僕はここで星を眺めるだけだから。君は自由なまま彼女と連れ添えるかもしれない」
「はい。僕は彼女を自分の半身だと思っています。たとえ彼女がそう思ってなくても」
「そうか」
もう完全に僕の出る幕はない。トモと若菜は新しい時代の恋人たち。まだ偏見や因習と戦わなくてはいけないかもしれないが二人なら立ち向かえるだろう。どこに向かっているのかどこが終着駅かわからない旅路を永遠のパートナーと歩んでいけるトモを羨ましく思う。
「もう会うことはないと思いますけど、お元気で」
「うん。君も頑張って」
僕を抱いたトモは気が付くと精悍さを伴って幾分か青年らしく見えた。――男に生まれるのではない。男になるのだ。
有名な言葉を変えて呟いてみる。立ち去るトモの背中を見つめて祝福があらんことをと祈った。