スコーピオの女 情欲の章-6
数日後、スクールの駐車場で麻耶が待ち伏せをしていた。勿論、車に乗りこんでき、少し走らせ、落ち着いた雰囲気の喫茶店に入った。
「この前はごめんね」
「まあ……。俺には特に被害がなかったから。で、これからどうするの」
「彼と結婚するの。彼は組長の口利きで製材所で働けることになったのよ。あたしも小さな園芸ショップでバイトさせてもらうの」
頬を染めた麻耶はつつましい生活になるだろうに夢を見る少女のようだった。
「そうか。でも……。あの……」
「んん?はっきり言えばいいじゃない」
「彼、だめなんだろ?麻耶は平気なのか」
麻耶はぷっと吹き出して「やあねえ」と明るく笑う。
「ほしき。あたしはね。」
一呼吸置き麻耶はコーヒーカップの白い縁を見た。
「まだほしきしか知らないのよ」
「えっ!」
驚いて思わず立ち上がろうとしテーブルをがたっと鳴らしたせいで他の客からチラッと見られてしまう。
「やだ。――きっとほしきはあたしのこと男なしじゃいられないと思ってるんでしょ」
「いや、そんなことはないけど。――驚くよ」
「まあねえ。セカンドバージンもいいところよねえ」
あの座敷での男四人を相手取りおとしていく様子を目の当たりにすると信じられなかった。しかしあのテクニックは麻耶が身を守るための術だったのだ。
「男ってとりあえずイかせたら大人しくなるじゃない」
「やっぱり苦労したんだな……」
「お互いさまでしょ」
「え、いや、まあ」
「でもあっちの方は心配しなくても大丈夫よ。いい先生を見つけたの。表向きはアーユルヴェーダと整体の先生なんだけど、実はカーマスートラの達人なのよ。そもそも彼、身体の機能は治ってるらしいもの」
「な、なんかすごそうだな」
「きっとセックスのプロフェッショナルね。ほしきにもその先生の居所教えといてあげる。どうも一か所で長く診ないらしのよねえ」
麻耶の話を聞きながら自分の『セックス鑑定』についてぼんやりと思いを馳せた。観ることはできても治せはしない。
「ほしき。ありがとう」
考え込みそうになったとき麻耶のクリアな声が聞こえた。
「ごめん。もっとちゃんと観ればよかった。麻耶の事」
「ううん。十分見てくれてたわよ。――なに?初めての男だからって責任感じなくていいわよ」
「ん。ありがと」
「ほしきにも最後の女が現れますように」
一撃で仕留める毒を持つ蠍は普段はひっそり息をひそめて生きている。常に毒を振りまいているわけではないのに見ただけで、存在していると思っただけで恐怖を感じる。
麻耶の情欲をあおるような催淫剤におびき寄せられる男たちは、本当は彼女の魂の奥にある深い愛に触れたいからかもしれない。麻耶を目の前にすると心より先に身体が反応してしまうだけなのだ。――男は作りが単純だからな。
しかしあの柏木と言う男が唯一麻耶の愛を、至宝を手に入れるのだ。