スコーピオの女 情欲の章-2
気が付くと十畳ほどの広い和室にいた。――ここは、どこだ。
後ろ手に縛られており口には猿ぐつわと言った丁寧さで僕は拘束されていた。目の前には麻耶も同じように拘束され転がされている。気を失っているようだ。身体をよじって麻耶のほうに行こうとするとふすまがさっと開き先ほどの三人組の男がまた別の男を連れてきた。
「こちらです」
三人組はその男に対してはやけに低姿勢だ。
「麻耶!」
麻耶に気づき駆け寄る。
「すみません。ちょっと寝てもらってるだけです」
少し着崩れたダークグレーのスーツと黒いシャツから覗く精悍な浅黒い肌が見えた。鋭い目つきで畳を睨みつけ僕の方へ視線を寄こした。
「こいつは誰でい」
「女と一緒にいたので騒がれるとやばそうだったもんで連れてきやした」
「ちっ。素人さんだろうが」
彼が麻耶の恋人なのだろうか。そしてこの場所はどこか組の事務所であろうか。
男が眠る麻耶の様子を見守っていると再びふすまがさっと開けられ和服姿の初老の男とTシャツとミニスカートという軽装の若い女が入ってきた。
「オヤジ。リカ」
「おう柏木。この女か」
初老とはいえ眼光の鋭さが組長なのだと素人の僕にも分かった。
「ふん。邦弘ってばこんなババア相手しちゃってさ」
リカと呼ばれた若い女がずかずかと畳の上を歩き、横たわっている麻耶の頭をこつんと蹴った。
「リカなにしやがるっ」
女はふんと鼻息だしそっぽを向いた。組長はその様子を渋い表情で見ていたが黙って奥の座敷に座った。
「うっ、んん、うぅ」
麻耶が目を覚ます。ハッと目を開いたが拘束され猿ぐつわを噛まされているので身体をよじらせただけだった。麻耶は柏木邦弘に気づき何秒か見つめ合ったのち僕に気づきすまなそうな雰囲気で目配せをした。
「柏木。愛人を作るなとは言わんがな。リカと別れるってのはどういうつもりでい。来年にはおめえの子が生まれるんだぞ。リカも軽い浮気なら許すって言ってるんだ」
「オヤジ……。お願いです。リカとは終わりにさせてください」
「邦弘っ、リカはハンコ押さないからね!ねえ、パパこの二人を懲らしめてやってよ。ほかの若いもんに示しつかないっしょ」
赤茶けた乾燥気味のパーマヘアを弄びながらリカは組長に猫なで声を出す。
「おめえがこの女と手を切らねえと言うんなら、女のほうから切らせてやろう。おいっ」
三人組の男に組長が声を掛けると男たちはさっと柏木を押さえつけ縛り上げた。
「くそっ、なにしやがるっ」
更に組長が顎をしゃくるとぞろぞろと四人ほど半裸のいかつい男たちが部屋に入ってきた。背中に彫り物があるものもいる。