ジェミニの女 好奇心の章-3
「ちょっとチセちゃん。どういうつもり?」
「今度ラブホ特集するんで調査ですよ。ほら一人じゃ入りにくいじゃないですかあ」
「いやいや。『ミートゥー』でそんな特集しないでしょ?」
「やっぱばれました?でも、こんなとこで揉めてたら変に思われますよ?早くこっちこっち」
強引に手を引かれホテル内に入ってしまった。ため息をついているとチセは楽しそうに部屋のパネルを眺め声を掛けてくる。
「見てみて、かわいいー。せんせ?今頃のラブホってエッチするだけじゃないんですよ?カラオケとか映画とか。パーティーだってできるし。全然嫌らしくないでしょう?」
「まあ今どきはそうだよね」
先月牛島夫妻とのラブホテルでの出来事を思い出しぼんやり答えると「あ、なんか。先生、最近来た事ありそうな言い方ですね」鋭く突っ込まれた。
「いや、なんか、なにかのニュースで見た気がして……」
しどろもどろの僕に不審な目を向けて
「ふーん。ま、いいですけど。ここ行きますよー」
とお構いなしで部屋を選びさっさと行ってしまった。――帰るとまずいだろうか。見失わないようについていった。
クリーム色の扉を開きチセは中から手を振って「はやくはやく」と僕を急かす。
ため息混じりに頷いて中に入った。
「うわっ」
あまりの明るさに目がくらんだ。
「これぐらい明るいと真昼間の公園って感じですね」
笑いながらチセは大きなやはりクリーム色のベッドに座ってスプリングを確かめながら弾んだ。
「そうだねえ。いきなり昼間になったような気分だよ」
部屋を見渡しているとチセはクローゼットから何やら衣装を取り出してくる。
「どう?せんせ。似合う?」
ナース服だ。
「んん?コスプレ?」
「そうそう、ここコスプレありみたい。ほらまだありますよー」
懐かしいセーラー服とヒョウ柄の着ぐるみのような衣装を引っ張り出しチセは身体に当てた。
「まあ、可愛いね」
「まーた。興味なさそうですね」
「う、うん。あんまり興味ないかな。ごめんね」
ふくれて彼女は衣装を戻した。そしておもむろに僕に近づき両手を包み込むように握り目を覗き込んできた。
「先生ってどんなタイプの女性が好きなんですか?」
まっすぐに邪気のない好奇心が見える瞳だった。
「わからない」
正直に答えた。
「占い師なのに?」
「うん。なんでだろうね」
「人のことはよくわかるのに変ですね」
「だね」
チセは手を握ったまま目を伏せ「アタシのこと教えてください」と呟いた。
「前に鑑定してあげたじゃない」
「ううん。もっと深く。セックスのことが知りたいの。アタシの。どうしても集中できなくて」
「気持ちよくないの?痛いとか」
「いえ。どっちかっていうと気持ちいいと思います。でもなんか飽きちゃう」
「相手がおんなじことばっかりやってるのかもよ。そんなに気にすることないって」
「お願い、せんせ。抱いて。もっと深く感じてみたいの。先生ならできると思う」
淫靡さがまるでない真摯な目が僕を貫く。
「だめだよ。彼氏だっているんだから」
「ううん。もう別れたちゃった。あと、アタシ仕事もやめました。来週からしばらくアメリカに行くんです」
「えっ」
急な話に驚いてチセを見返した。
「去年から考えていたんです。もっともっといろんなことを知りたくて」
「大丈夫なの?いきなり」
「アメリカは学生のころに留学してたのでそんなに心配ないです」
「そうか」
「お願い。お餞別くださいませんか?」
こんなにしおらしいチセを初めて見て僕はドキリとした。双子座の小悪魔的な一面がチラチラ垣間見え僕を翻弄しそうだ。一言も発せずじっとしている僕の手を引いて「突っ立ってないでお風呂いきましょー」と明るく誘った。とりあえず引っ張られるままバスルームに向かう。