夏彼-2
あーあ、あたしってば悲惨。就職希望のあたしにとって、学生最後の夏休みだったのに…。店長なんて【ピーッ】して、バカンス中に【モザイク】なって【自主規制】して【放送禁止】しちゃえばいいのに…。
「どうした、笑？」
「バッ、バイトに…なりました…」
「ぬぅぁあにぃぃッ!?」
ダッサァ。何が悲しくて、皆が海でキャンプしてる時に居酒屋のテーブル拭いてにゃならんのだ。
大体さぁ、店の責任者が夏休み取ってんじゃねぇよ。ワイフとバカンスとか普通に無理だろ、今の時期！冷たいビール求めて、どんだけ人が来ると思ってんだよっ。たっく、７時にもなるともういっぱいいっぱいじゃんか。
今日はたまたま、向かいのビルでビアガーデンあるらしいし、ピークも過ぎたから、お客様少ないけど…。今日もどんだけ動いたと思ってんの！時給、もう20円くらい上げてくれたっていんじゃない？
「笑、行けないのぉ!?」
「みたいです…」
「仕方ねぇな。じゃあ俺たちだけで楽しんでくるか」
…何っ!?
「そうだね、叶斗」
「えっ？嘘でしょ!?」
まさか、あたしを仲間外れにするつもり…？いや、この空気、確実にするんだぁー！
「じゃあ、今回は残念でした、ってことで」
そう言って苦笑する永遠。
なぁにが「笑が空いてなかったら、オレも行かないつもりだったんだ」だよ!!ちゃっかり行く気満々じゃんか。永遠の馬鹿野郎、カス、ボケ、アンポンタン！
くっそぉ〜っっ。悔しい〜っっ！
「えっちゃん。荒れてるねぇ〜」
不意に声がして戸口の方を振り替えると、副店長が笑顔で立っていました。
「副店長、荒れたくもなりますよ…。店長のせいで、あたしは【君とラブラブになるぞキャンプ】に行けなくなったんですよ…？」
そんな副店長に、あたしは愚痴りたくなるんです。
「まあまあ。えっちゃんにお客さんだよ」
お客さん？
「今、外にいる。今日はもうあがってもいいよ！」
私の肩をポンポン叩いて、副店長は店の奥に消えていきました。
「…？…はぁ」
お客さんとは永遠でした。永遠が可愛い笑顔で「よっ」と片手を上げました。
よくもまぁ、あたしに顔が出せたもんだよね。
「…キャンプしてんじゃなかったの!?」
永遠と一緒にいれると幸せだったのに、今は超不機嫌です。
「オレ言ったでしょうが。残念って…」
残念？……はっ!!もしかして、いやいや、もしかしなくても『俺たち＝エミリと叶斗』『残念＝オレも行けなくて残念』てこと!?
「そうです」
「何で考えてること分かったの!?」
「顔に書いてある！」
あたしは顔をペタペタ触ってみますが、何も書かれているようには思えませんでした。