家族旅行での出来事 4 -2
「……。」
「どうする?史恵に頼んでみる?」
「誰か男を一人、調達してくれってかい?」
「だって、あなたはあの娘さんを抱くでしょ?
あの青年は真奈美を抱きたいに決まっているでしょ?
そうなると、わたしがあぶれるじゃない。」
(ん?あの青年?孝志お兄ちゃんのこと?
真奈美を抱きたいに決まってる?
うん。真奈美もあのお兄ちゃんがいいな。
えっ?お母さんがあぶれる?
あぶれるって何だろう。)
「う〜ん。ボクが二人を相手にするって言うのはどうかな。」
「無理しなくていいわ。さっきだって我慢したんでしょ?
あの娘さんと2時間じゃ足りないくらいだわ、きっと。」
「う〜ん……。」
(なんか、お父さん、困っているみたいだぞ。)
「ねえ、どうしたの、お父さん。」
真奈美が声をかけると、父親は飛び上がって驚いた。
「なんだ、真奈美。そこにいたのか。
急に声をかけるからびっくりしたじゃないか。」
真奈美は盗み聞きした夫婦の会話について質問をした。
「ねえ、お母さんがあぶれるってなあに?」
「なんだ、聞いていたのか。」
「ねえ、お母さんがあぶれるってなあに?」
「真奈美が気にすることじゃないさ。お父さんたちの任せておきなさい。」
「でも、史恵さんに頼んでみる、だとか、男を一人調達する、だとか……。
何か困ってるんじゃないの?」
「まあ、困ってるって言えば困ってるんだけどな。」
「お母さんが物足りなくなるって言ってたよ。
物足りなくなるって、満足できないってことでしょ?
それじゃあお母さんがかわいそうだよ。」
「う〜ん。じゃあ、真奈美が我慢するか?」
「えっ?真奈美が?真奈美、何を我慢すればいいの?」
(じゃあ、真奈美が我慢すれば、お母さんは物足りなくならないっていうこと?
う〜ん。お父さんの話って、いつもよくわかんないや。
もっとわかりやすく簡単に言ってくれればいいのになあ。
でも、お父さんもお母さんも、真奈美がわからないとでも思ってるのかなあ。
女の人は真奈美とお母さん、真央お姉ちゃんの3人。
男の人はお父さんと孝志お兄ちゃんの2人。
3対2じゃ、一人仲間外れになっちゃうっていうことでしょ?
でも、そういうことって、よくあるじゃん。
でも、独りぼっちじゃ寂しいから、
お父さんか孝志お兄ちゃんが2人を相手にするしかないっていうことでしょ?
あ、それで、あのおばちゃんに男の人を頼もうって言ってたのか。
それなら、全員が1対1だものな。
整理して話してくれれば、真奈美にだってわかるくらい簡単な話なのに……。)
「あなた。真奈美ちゃんに言っても……。」
(あ、やっぱり、真奈美のこと、わかんないと思ってる。
どうしてお母さんって、いつも真奈美が何もできないみたいに言うんだろう。
真奈美だって頑張ればいろんなことできるのになあ。)
真奈美が母親に向かって一言言おうとした時、扉の外で声がした。
「こんばんは〜。遅くなりました〜。」
そこにやってきたのは洋服姿の松本兄妹だった。
「うわ〜。凄いお部屋ですね。」
部屋に入るなり、部屋中を見回して、孝志は大きな声で言った。
「お兄ちゃん。いきなり失礼でしょ?
奥様。厚かましくご一緒させていただきます。」
「ヤダ、真央ちゃん。そんな遠慮しないで。
それよりごめんなさいね。真奈美が一方的に約束しちゃったみたいで。」
「いえ。そんなこと、ありません。
でも、奥様。よく許してくださいましたね。真奈美ちゃんとの約束。
わたし、真奈美ちゃんがガッカリして断りに来るのを何度も想像しちゃいました。」
「断る?こんな素敵な約束を断ったりするものですか。
最初から大歓迎よ、ねえ、あなた。」
「あ?ああ。そうだな。」
(え〜?お母さん、今度は嘘言ってる〜。
真奈美がお兄ちゃんたちと約束してきたって言ったら、
なんでそんな約束してくるのって、怒ったじゃん。
もう。ホントに、お母さんの言うこと、信じられないぞ〜。」
真奈美は一人ふくれて中庭を眺め始めた。
後ろでは孝志が何事か夢中になって話している。
真奈美は話が途切れたところで孝志たちに声をかけようとするのだが、
なかなかタイミングがつかめないでいた。
「……。」
「確かにそうですね。年齢でするもんじゃないですよね。」
「とは言うものの、やっぱり孝志君の狙いは真奈美だろ?」
(ん?孝志お兄ちゃんの狙いは真奈美?真奈美の何を狙ってるんだ?)
「……。」
「……。」
「兄の場合は、声なんです。」
「声?」
「はい。簡単に言えば、あの時の声。」
「あの時?いく時の声ってこと?」
「はい。女性がいく時の声に、
その女性の全てが現れているっていうのが兄の持論なんです。」
(いく時の声?えっ?いっちゃう時に、真奈美、どんな声、出してたんだろ。
とし君にもとしパパにも聞いたことないなあ。
えっ?それに、普段お話ししているときの声とおんなじじゃないのかなあ。
あ、でも、確かに美奈子お姉ちゃんは、
普段お話してる時の声よりも低いっていうか、太いっていうか……。
怒ったような声を出すときもあるか……。
ふ〜ん。男の人って、変わった理由で女の人を選ぶんだなあ。
っていうか、そういう理由で選ぶ男の人もいるっていうことか。
やっぱり、いろんな男の人と知り合うと、いろんなことがわかるなあ。)
「とは言うものの、やっぱり孝志君の狙いは真奈美だろ?」