淫らな夏 (1)-3
翌朝、気恥ずかしさの中で起床し、しかし素知らぬふりを貫き朝食をとる四人。すぐにいつものペースに戻り、海に出た。今日は二泊三日の二日目である。
男同士では何か話しているのだろうか。できればDには、昨晩のことも私のことも何も言わないでほしい。済んでしまったことは仕方ないが、明るく健康的な太陽の下に出ると、昨日の行為が猛烈に恥ずかしくなってくる。今日はもう誘われてもしない。寂しいけど我慢しよう。ゆきは心に誓った。
「ゆきちゃん、脚ほっそ! お尻ちっさ!」
パラソルの影でうつ伏せになり目を閉じていると、楓の声がした。
「なにこれーほんと羨ましい! 触っていい?」
返事をする前から楓の手はビキニ姿のゆきの腰から尻、太ももをすりすり撫で回してくる。へーとかほーとか、とぼけた感嘆の声をしきりに上げている。DとEの二人は沖まで泳ぎに行ってここにはいない。
「男子の前じゃこんなふうに触れないからねー。今のうちに……へっへっへ。あー、お尻ぷにぷにしてるー! はぁー! 気持ちいいー! 肌白ーい! はぁー! なにこの華奢な腰ー! はぁー! 可愛いー!」
ゆきは笑いながら楓の手を払い除け、起き上がる。
「楓さんこそ、はしゃいでてなんだか可愛いです」
やはりビキニを着用した楓は、胸も尻もぷりんと突き出て男好きしそうな身体つきである。スリムなのに肝心なところはちゃんと出っ張っている楓のプロポーションは、ビーチで一層映える。スレンダーでモデル体型のゆきと、グラビアアイドル体型の楓が黄色い声をあげてふざけていると、否が応でも周囲の視線を集めてしまうが、二人は気がついているのかいないのか、意に介さずじゃれあっている。
「な……は、はしゃいで……!? そんなことありませんことよ?」
楓は自らの「クールなお澄ましキャラ」を逆手にとり、ときどきこうやっておどけてみせる。同性のゆきでもドキドキしてしまうほどの美人なのに、気さくな一面もあって後輩に気を使わせない。ゆきは楓のことが大好きだった。
それにしてもやはり、今日の楓からは夏のバカンスならではのテンションの高さを感じる。ゆきから見ればお手本のような「大人の女性」である楓が、子どものようにうきうきしているのも、また可愛いではないか。
「あ、それはそうと。はいゆきちゃん、これおごり」
かき氷をゆきに手渡しながら、楓は言った。
「えー? いいんですか? 私の好きないちごミルク! うれしーい! ありがとうござ」
「昨日の夜、可愛らしい声、聞かせてくれたお礼よ……ふふふ」
「………………!?」
「可愛いー! ゆきちゃん耳まで赤くなってる!」
「……な………………!? こ……あ…………」
「こりゃモテるわけだわー。美人さんなのにスれてない!」
「ぅ……あ……ぁぅ……あ……」
「でもこんな可愛い子があんなことやこんなこと……しかも二回も……ねぇ……」
「ちょ……えっと……あの……」
昨夜のことはやはりほぼ始めから聞こえていたらしい。隣でゆきたちが始めてしまったので楓とEもその気になり、事に及んだ。そうしたらまた隣で二回戦が始まった。
「私もあんなこと初めてだよ。でもゆきちゃんの声聞いてたら……私もちょっとエッチな気分になっちゃった……」
見ると楓も顔を赤くしている。やっぱりこの人可愛い。ゆきは思った。とんでもなく恥ずかしいことのはずなのに、相手が楓だからかそこまで嫌な気持ちにはならなかった。
楓も同じ気持ちだったのか、その後は女子大生らしく互いの恋人の話、馴れ初めの話、彼氏へのちょっとした愚痴など、いわゆる「恋バナ」を楽しんだ。セックスの話も少しした。二人ともあけすけなタイプではなかったので遠慮がちではあるが、昨晩あんなことがあった以上、やはりどうしても気になってしまうのだ。
すべてをDに教えられたゆきと違い、楓とEは二人で少しずつ、「大人のセックス」を覚えてきたのだという。一年以上の付き合いの中で、オーラルセックスやさまざまな愛撫、体位をひとつひとつ試して、二人の性行為に取り入れてきた。
「今はEくんと色々するのが楽しい時期なんだー……」
えへへと舌を出しつつ率直に語る楓の頬は、また赤く染まっていた。素敵な恋、素敵なセックスを、照れつつも堂々と語る楓の横顔がまぶしい。自分もDとそういう関係になりたい。
楓たちは互いに初体験同士というのも、ロマンチックなことのように感じられた。ゆきは、Cとは結局別れてしまい、Dは二人目だ。一年以上付き合った経験もない。生涯たった一人の相手と、堅実に愛を育んでいる楓が、少し羨ましい。
*
「そっかー。じゃあゆきちゃんのほうが経験豊富なんだねー」
「経験豊富だなんてそんな。前の彼氏とはほとんどしてないし……」
「へぇー、じゃあDくんとはいっぱいしてるんだ?」
「あ、そういうわけじゃ……」
「もーー。隠さないで! どうなのその辺? 昨晩の様子じゃどうせ毎日してるんでしょ?」
「ど、どうって。楓さんこそ毎日してるんじゃないですか?」
「わ、私たちは……まあその……ま、毎日してるよ。ここだけの話」
「えーー! ラブラブ。素敵!」
「ゆきちゃんほら。私はちゃんと言ったよ? あなたもちゃんと白状なさい」
「ふふふ。えっと……はい、私たちも……毎日、かな? ほとんど……」
「なんだー、人のことラブラブとか言えないじゃんーーもうーー」
「内緒ですよ! 本当に」
「うれしー。ゆき先輩でもそうなんだ」
「先輩とかやめてください! そんな経験豊富じゃないですーー!」