『茜色の空に、始まり』-7
「秦一、昨日途中どっか行ってたろ。何してた?」
高志はビールケースの片方の取っ手を持ってくれながら、僕に話し掛ける。
酔って周りの事なんか眼中に無いのかと思っていたら、なかなか鋭い。
「いや、別に。」
内緒にする必要なんて無いのだが、昨日のあの光景はそっと僕の胸に閉まっておきたい、何となくそんな気分だった。
ふーん、と、軽く受け流すのを見ると、高志も別にそこまで気になっていた
わけではないのだろう。
荷物を全部川原へやってから、今日も買い出しに出掛けたみのりさんと蓮さんを待つ間、釣りをしたりしてのんびり過ごした。
日も落ちかける頃にバーベキューが始まり、暫くして皆のお腹も満足してきた頃合いに、組んでおいた薪に火を焼べる。
大きく燃え盛るオレンジ色の火に照らされながら、皆で食べ、飲み、語り合った。
何だか青春だなあ。と、感心していると、ふと、明香さんが学校に戻るのが目の端に見えた。トイレだろうか。
街灯も無いこんな真っ暗な中、大丈夫かな、と、チラリと心配したが、学校はすぐそこだし、手には懐中電灯を持っていた様だ。
隣でお酒を勧める先輩や話し掛ける同期生に、僕は又すぐその輪に戻った。
暫くそうやって楽しく飲んで食べていたが、まだ明香さんが戻って来ていないのに気付いた。多分もう20分は経っているだろう。どうしたんだろうか。
気になって、トイレ、と隣の同期生に声を掛けて立ち上がる。
学校には誰も居なかったが、廊下の明かりはこうこうとついていた。
1階のトイレを覗くが誰も居ない。2階の部屋に戻って休んでるのかな?と思い、2階に上がってみる。が、どの部屋の明かりもついておらず、人の気配はなかった。
少し不安になり、2階のトイレも見てみよう、と足を進めると、トイレの先の向こう側の階段の上の方から気配がした。屋上?
屋上へ繋がるドアは開いており、かすかに声が聞こえてきた。
「・・・。うん、じゃあ。おやすみ。」
階段を上り切って屋上に出ると、木で出来た白いテーブルと白い椅子が何脚か白いパラソルの下にあり、そして、そこには座らず、地べたに座り込んで壁にもたれ、携帯を握る明香さんが居た。
明香さんはすぐ僕に気付いて、
「ビックリした〜。どうしたの?」
と、さほど驚いてはなさそうに明るく聞いてきた。
「いや、なかなか戻って来ないから、気分悪いのかな、と思って・・。」
誰と電話してたんですか、と聞きたい衝動に駆られたが、胸に押し込める。
何故だか醜い感情が僕を支配する。
「あーごめんねー。星が綺麗で。あっち居るとさ、煙で空隠れちゃうじゃない?」
そう言って空を仰ぐ明香さんにつられて、僕も夜空を見上げる。
学校は小高い丘の上に建てられており、その屋上から見上げる視界に邪魔するモノは何も無く、僕の視界には360度、満天の星空が広がっていた。