悪い男-9
「もう入れて…」
か細い声がいやらしい汁を垂らした本人の口から請うように絞り出された。僕は数回理佳の二つの尻肉にわざと音を立ててキスをしてから、正常位の体勢にして、ペニスを理佳の濡れてどろどろになった股の間に刺した。
「ああああっー。ああん、あっ…」
理佳はもう僕の顔を見れないでいた。快感で顔を歪ませているからか、意図的かは分からないが、固く瞼を閉じて吐息を漏らす。そのまま顔を近づけて理佳が出す息を浴びる。理佳が目を開けたらキスしようと待っていたが、中々開かない瞼に痺れを切らして口づけた。舌を捩じ込むと理佳の舌も浮き上がって絡ませてきて、やっと僕の目を見てくれた。
唇を遠ざけて、理佳の目を見て腰の動きのギアを上げる。僕の我慢も限界に来て、顔を歪ませて理佳の奥をただただ執拗に突き動かした。
「イって良いよ」
理佳を見ると、目尻に涙のような輝きがあった。瞳は妙に安らぎに満ちていて、弟を見る姉の目に戻っているように映った。理佳の目に後悔の色がないことに安心した。これなら明日からは普通の姉弟に戻れる気がした。
理佳が抱く僕の背中にグッと力が入る。指の痕がつくくらい押し付けられている。僕の呼吸が荒く宙を舞う。それに合わせて理佳の喘ぎ声も激しさを増し、ベッドが壊れるくらいに軋み出す。睾丸から精液の渦が尿道を通って押し上がってくる感覚に飲まれる。この一瞬のために、理佳とのキスや愛撫があったのだと感慨にふけりそうになるが、もうそんな余裕はない。
「あああううっ!」
普段出さないような野太い声を出して、あっという間に絶頂を迎えて、理佳の中から脱したペニスから精液がコントロールを失って放たれた。
理佳の横にぐったりと倒れたまま天井を見上げた。沈黙が流れる。理佳を見ると、同じように宙を見ていた。切なくなって、理佳の手を握ると、こっちを見た。真顔で見つめる。怒っているのかと思って、
「ごめん。姉ちゃん、僕…」
「良いのよ。一緒に体流そっか」
理佳は僕の手を掴んで立ち上がる。
一瞬よろめいた理佳を受け止めて抱く。
「ごめん。ちょっと頑張りすぎたかな」
理佳は苦笑いしながら、一人先に風呂場に歩いていった。
翌日、目覚めると隣で寝ていたはずの理佳は消えていた。ベッドを下りて、携帯を見るとメールの着信がある。理佳からのメールで、おはよう。朝一番の電車で帰りました。鍵はドアのポストに入ってます。じゃ、また。というさっぱりした文面が残されていた。昨日あったことには触れられていない。朝、顔を合わせるのが気まずかったから始発の電車に乗ったのだろう。正直僕も今朝顔を見て何を話そうか困っただろうから、顔を見て別れられなかったことに一抹の寂しさはあったがこれで良かったんだろう。
台所に行くと、昨夜使った食器類がすべて洗われてラックに干されていた。胸がきゅうっとなって、しばらく立ち尽くした。
一月後、僕は有紗に結婚を申し込み、驚かれたものの快諾の言葉を貰った。自分でも思い切った決断をしたことは分かっていたが、そうしないと色々なものが整理出来ないという考えに迫られた。
理佳に結婚の旨を電話で報告するときは緊張したが、素直に喜びの声を返してくれた。電話の向こうの理佳の声には安堵の感情が入っていたと思う。まるで頭になかった結婚に踏み切ったのも、理佳を安心させたいことがあった。
当の妻となる有紗の立場になれば、つくづく自分は酷い人間だと失望するが、そうして家族でも作らなければ、自分がこの先何をしでかすか恐ろしくてたまらなかった。
「お母さん、ちょっと寂しがってたよ」
結婚のことを直接は伝えていない瑶子の反応を鈴がいちいち知らせる。二人並んでソファに腰かけてテレビを眺めている。
「嘘つけ」
「本当だよ。今度誘惑されたらちゃんと断ってよ。ダンナサンになるんだからね」
「はいはい」
ひょこっと鈴が膝の上に乗ってくる。
暖かくなって履き始めたショートのジーンズに包まれた臀部の感触が太股に伝わる。鈴のきれいな太股と心なしか長くなった気がする脚に見とれてしまいそうになる。
来月には四年生になる鈴はこれからどんどん成長して、見違えていくのだろう。胸も尻も膨らんで、同級生の男子たちを惑わす妖艶な鈴を頭に描く。
鈴が無口になった僕を確かめるように首を回して見てきた。黙って視線を返すと、唇を近づけてくる。息が当たるくらいのところで止まって、鈴は目を瞑って薄く口を開いて顎を上げる。
妖しい少女の無垢な顔をじっと見ながら、この子と出会わなければ、多分少女と性的に戯れることもなく、シングルマザーと不貞を働くこともなく、姉とのセックスに至ることもなく、結婚することもなかったかもと思いを巡らせる−。
が、すべて決断して実行したのは紛れもなく自分。言い訳をするな。愚か者よ。
僕は鈴の頬をつねって、目を開けた鈴を笑顔で迎える。
「合格ー。でも、間があったね。ちょっと迷ったでしょ」
「もう一回つねってやろうか」
「やだ、ごめんなさいー」
鈴が膝から飛び降りて、離れていく。無邪気な笑顔で逃げようとする鈴を茶目っ気全開で追いかける自分がいた。