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悪い男
【ロリ 官能小説】

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悪い男-1

あと三ヶ月も過ごせば三十になる。
帰りの電車に揺られながら何となく寂しい気持ちに浸る。自分は今までどうやって生きてきただろう。自分とはどんな人間だろう。思い描いてみる自分の人生も人間性も、どうして鮮明に印象が薄い。
家族や友人からは真面目で信頼出来るとよく言われる。会社でも、極めて仕事が出来るタイプではないが、そつなく何でもこなすので上司から任される仕事も多い。
恋人からは優しいとか、誠実だねと言われることが多かった。若い頃はそんなに嫌いじゃなかったその種の形容も、年を取ると人に優しくすることや誠実であることなど誰でも出来ることだと気づく。これは誉め言葉ではない。充分な魅力を持たない人間に与えられた情け、慰めなのだと。
成功者でも、犯罪者でもない大多数の平凡な人間の中でも多分自分はつまらない人間として上位なんだろうと思う。それは決して非難されるようなことではないが、自分を傷つけてきたのは事実としてある。
自宅アパートのエレベーターで三階に上がって奥の部屋の前に立つ。ドアを開けるとテレビの音が薄く聞こえ、玄関で靴を脱いでキッチンとリビングがある大広間のソファに鞄を置く。
「おかえり」
隣の部屋の小学三年生の少女、鈴がテレビをBGMに漫画を読んでいる。母子家庭で七時近くになっても帰宅出来ない母を待ちわびて、度々僕の部屋に入って漫画やゲームで時間を潰している。ちなみに鈴は僕の部屋の合鍵を持っている。
「お母さんはまだ?」
「うん。八時半くらいには帰れるってライン来た」
「お腹空いただろ。生姜焼き作るけど、夕飯の前に少しだけ食べる?」
「じゃ、少し」
半年前にこの部屋に越してきて、特別同じアパートの住人の部屋に挨拶に伺うこともなかったが、隣室の鈴と母の瑶子とはすれ違えば会釈くらいはしていた。何度かエレベーターで一緒になって簡単な会話もするようになると、夜部屋の前で鈴が座って待っていた。
「どうしたの」
「お母さんが遅くなるからコンビニで弁当買って先に食べててって」
「うん」
「朝お金渡されたんだけどさ、学校の帰りに本屋で本買っちゃったから」
「悪い子だな。味は保証出来ないけどうちで一緒に食べる?」
「はい」
あのときも、今晩と同じく生姜焼きだった。下手な料理でも美味しいと言って食べてくれたことは嬉しかった。あれから多少調味料やタレ作りに工夫するようになったので、生姜焼きの味は進歩したと思う。今のところ自分の作ったものを食べてくれる他人は鈴しかいない。
鈴は立ったまま二切れの生姜焼きの肉を箸でつまみ、親指を立てて可愛らしく微笑んでまた漫画を読みに行く。小説しか読まなかった女の子が漫画好きにもなったのは、僕の部屋に来るようになったからだ。ゲームもここで覚えた。鈴は漫画やゲームの楽しさを知って学校の友だちとも打ち解けやすくなって良かったと言う。
大人びた子だということは初めて母親も交えて話したときに分かった。一人で家にいることが多い鈴は読書ばかりしてきた。孤独に慣れ、母親に甘えることを知らない鈴はどこか冷たい目をしていように見えた。
母親の帰りが遅い日に僕の部屋で遊ぶようになってから随分時間が経った。休みの日に僕がいないときにも漫画やゲームで遊びたいという申し出を呆気なく受け入れて合鍵まで渡した。
自分の夕飯を済ませ、食器を洗い場に置いて水を張っておく。鈴はソファに座って漫画に集中している。


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